「アイドルマスターシンデレラガールズ」19話(後半)

●李衣菜についてかな子・智絵里に相談するみく、聞いている杏。「きっと悩みがあるに違いないニャ。ねえ、なにか心当たりない?」本人に聞いてみたら、と言われて「聞いたけど話してくれないニャ」と顔をふせるみく。「仕事のし過ぎでストレスがたまってんじゃない?」とだるそうに横から口をはさむ杏。本当、土屋脚本回の杏はズボラ一直線だな!しかしみくは「仕事のストレス!?」と過剰に反応。「みくが、自分のやりたいことを押し付けすぎたせい・・・!?」あらら。
●ベンチでギターを手にため息をつく李衣菜、と、そばのベンチに座る蘭子から見られていることに気づく。「ああ、いや、なんでもないよ!」「そ、そう・・・」。蘭子の出番は今回これだけ。11話でも各キャラのちょっとした出番の割り振りがおもしろかったんですけど。ここはあえて深読みしても、李衣菜と8話の蘭子の悩みは異なるものなんですよね。むしろ核の有無の対比になるわけで。
●合同収録の控え室。当たり障りない会話を、ぎこちなく交わすみくと李衣菜。この場面のBGMがギターとトライアングル?の、11話冒頭、二人が大もめしてた場面と同じ曲なのがおもしろい。不審がるニュージェネレーションズ&凸レーション組。「ムキャー!ってケンカしてる方が、ハピハピな感じだにぃ」とさすがきらり、11話ラストで二人のケンカに困り顔の一同の中、「んふふ、仲良しだにぃ〜」と笑顔で解説した少女。「これじゃアスタリスク本当に解散しちゃうかも!」と指を立てる莉嘉に「えっ!?り、莉嘉ちゃん!解散なんて言っちゃダメですよ!」とあせる卯月、「しまむー、冗談に決まってるじゃん」となだめる未央。気にしてるんだよなー、卯月は。皆の様子を見ているプロデューサー。
●美城常務からロックバンドの説明を受けている夏樹・涼・輝子。「楽曲も衣装もすべてこちらで用意する。君達はコンセプトを理解し、プラン通りにライブを行なってくれればいい」と言い渡す常務。「つまり、あたし達には選択肢はないってこと?」「バンドの方向性も自分たちで決められないのか。」厳しい顔で沈黙する夏樹。15話の楓と同じ状況に立たされたといえますが、ここでの夏樹は何も言えないんですよね。
●プロジェクトルーム、ソファの上のバッグを取るみくの手。このカットで、テーブル下の置き台にみりあのスケッチブックが見えるのが気になる。5話(みくが立てこもりした回でもある)以降、企画書を書くものとして何度か使用されたそれがしまわれている状況。夢が見れていない現状、ともとらえられます。挨拶してあがろうとするみくに、声をかけるプロデューサー。
●346プロ入り口、帰ろうとしている李衣菜に声をかける夏樹。「暇ならちょっとつき合えよ」とヘルメットを見せる。李衣菜はややけげんな顔。二人を乗せてバイクは走る。
●プロデューサーとみくの対話。「なるほど。多田さんが悩んでいる理由がわからないと」「うん・・・」「一度、3人で話をする場をつくりましょうか」「・・・ううん。きっと、本当に大事なことだったら李衣菜ちゃんは話してくれると思うの。李衣菜ちゃんを信じる。Pちゃんも、みく達を信じてほしいニャ!」「わかりました」とうなずくプロデューサー。
●この場面と対になるのが、11話でのステージ前に交わされた、プロデューサーとアスタリスクのやりとりです。「リハーサルも不十分でしたが、大丈夫ですか?」「はい、大丈夫です!」「まかせといてニャ!」「お二人を、信じていいのですね?」「もちろん!!」「(うなずいて)頑張ってください」「はい!!」初ステージ前、二人を信じ“大丈夫”として送り出したプロデューサー(その結果は成功だった)に、もう一度「信じてほしい」わけです、みくは。思えば彼女があのステージへの出場を志願したのも、「プロデューサーが組ませてくれた意味、今、納得しておきたい」と発言してのことでした。あの時アスタリスクとしての意味を得ただろうみくは、今、李衣菜のことも“信じたい”わけです。



○さて。デレマス11話感想記事のみならず、アイマス24話や劇場版アイマスの感想でも述べた点ですが。アニマス土屋脚本好きな私には、こうして用いられる「信じる」という言葉は大きな意味を持つものなのです。
アニマス6話(これは土屋脚本ではなく、シリーズ構成の待田堂子脚本)にて、失敗を犯して自責するプロデューサーを、天海春香が励ます。「プロデューサーさん、一人で頑張り過ぎですよ。私達だっているんですから!」「大丈夫です。私達を信用してください!」アニマス20話(土屋脚本)にて、思い悩む春香を、6話の出来事を引いてプロデューサーが励ます。「もう一度、みんなの仲間として、やり直そうって素直に思えた。春香には感謝してるんだ」「大丈夫。春香の気持ちはちゃんと届いてる」。24話(土屋脚本)にて、「それが正しいことなのか、自分にできることなのかわからなくて・・・」と動けないでいる千早を、プロデューサーの言葉が後押しする。「きっと、みんな千早と同じように感じていると思う」「大丈夫。みんなのこと、信じてるんだろう?」いずれシリーズ中の重要な局面で、そこでは“信じて大丈夫な仲間”が力をくれることをアニマスは描いてきた。そう思ってみると、上記の場面とアニマス20話の該当場面はそっくりです。

○で。アニマスにおいては、あるいはデレマス11話においても、これら“信じる”場面は突破口になりえるものでした。物語にカタルシスをもたらしてくれました。しかしそれは、お互いに信じる、という絆だからこそ力でありえたわけです。はたして今のアスタリスクは、というわけで19話感想を続けます。



●夕暮れの海岸に立つ夏樹と李衣菜。「気晴らししたくなると、時々来るんだ」という夏樹に、「なんかやなことあったの?」と尋ねる李衣菜だが「いや、ちょっとね」とぼやかされる。これ、李衣菜とみくの現状と同じですね。
●ギターの練習についての会話。「この間のライブみたいなキンギンのカッコいいステージを、いつか私もやるんだ!」と満面の笑顔を向けてくる李衣菜に、一瞬驚いたような表情を浮かべた夏樹は「カッコいい・・・か」とつぶやいて目をそらす。初めてロックの話をした時の二人とは、逆の立場。「やっぱロックは、カッコよくなきゃだよな」「うん、そうだよ!」「だりーと話してっと、なんかホッとするな。お前もウチのメンバーに入ればいいのに」。
●ここのやりとりが意外、というか正直初見ではつかめなかったんですけれど。李衣菜から向けられる「カッコいい」という憧れに対して、夏樹は寂しげなんですよね。自分に言い聞かせるように「カッコよくなきゃ」とつぶやいて、自分を安心(ホッとする)させて、美城常務に持ちかけられたロックバンドの話をその「カッコいい」スタイルとして李衣菜にふっている。つまり、夏樹にとってのロックとはカッコいいものではない、らしい。それに気づかない李衣菜のずれが、みくとの間のそれもあわせて哀しげに映る。
●夏樹からアスタリスクの話を出されて口ごもる李衣菜。ラブライカから李衣菜と夏樹がバイクで走っていったことを聞くみく。またベッドの上で遠い目で曲を聴いている李衣菜、だがここではスマホとイヤホン。ロックじゃなくなってる?
●ステージライブ控え室。李衣菜をちらちら見ていたみくだが、引きしまった表情で立ち上がり叫ぶ。「よーし!今日のライブ、最高に盛り上げるニャ!」「う、うん」と李衣菜の返事は弱々しい。あいかわらずの溝。
●ステージ裏。思いつめた表情の李衣菜にかけられるプロデューサーの声。「多田さん。どうかしましたか?」「プロデューサー・・・あの・・・ううん、なんでもない」と走り去る李衣菜。「あ・・・」と手を伸ばしかけるプロデューサーだが、フラッシュバックするみくの笑顔と言葉。「みく達を信じてほしいニャ!」手を下ろすプロデューサー。これは同じく土屋脚本の6話での、未央に走り去られて立ちすくむプロデューサーとの対比になっています。今回は手を伸ばす意志がある、でもみくの言葉を信じるという判断で動かない。
アスタリスクのライブ。観客席最後尾で見ているプロデューサー。入り口前に立ち、ステージに対して半身で無表情に見つめる夏樹。歌っていた二人だが、ダンス中にぶつかり共に倒れてしまう。驚くプロデューサーと夏樹の顔。あせるみくと李衣菜、まずみくが立ち上がって歌い出し、続けて李衣菜もコーラスを合わせる。観客も動揺し、一部は曲の最後までサイリウムを振れないまま。ちゃんとステージに体を向けて立っている夏樹(表情は遠くて見えない)。
●6話に続いてステージの失敗を描いた土屋脚本になるわけですけれど、この場面は夏樹の描写でもある。ステージへと体の向きを変える、というのは11話のプロデューサーもやっていた心理表現です。この時に、アスタリスク本来のステージには無関心だった夏樹は何かを見たわけです。おそらくそれは“ロックはカッコよくなきゃ”的なスタイルの枠とは別の要素で。サイリウムを振るのをやめてしまう観客、という描写も15話・16話との対比としてうまい。ファンだからこそ、という面だってあるはずですから。ちょっと思ったのはこのステージ、前半でみくが言っていた「今度のライブでも、何か新しいことやってみよう?みくは、思い切ってセクシーなダンス・・・」を取り入れて、その結果の失敗でもあったんじゃないでしょうか。
●楽屋にて、李衣菜に頭を下げるみく。「本当にごめん!みくのせいで、ライブが台無しニャ。ごめん、李衣菜ちゃん!」苦笑気味にフォローしようとする李衣菜だが、それをさえぎって「よくない!!」と叫ぶみくに固まる。李衣菜はもっとロックをやりたいんだから本当は自分なんかより・・・と言い出すみくに、息を飲む李衣菜。「でも、だから、だからこそ、みくはもっともっと頑張らないといけないの。李衣菜ちゃんが迷わないように。このユニットでよかったって思えるように。みくが、頑張って最高のユニットにしなくちゃ・・・」。そんなみくを怒鳴り、さらに言いつのられると彼女の両肩をつかむ李衣菜。「いつも言ってるでしょ、自分がロックだと思ったらそれがロックなんだって。アスタリスクが、私にとってのロックなの!ユニットなんだから、一緒に頑張らなきゃダメじゃん・・・。そんな心配させる私こそ、パートナー失格だよね。ごめん」ドアの前で口元を固く結び、二人の会話を聞いている夏樹。前髪で表情は見えない。歩いてくるプロデューサー、夏樹を見て立ち止まる。
●これは本当、いいシーンだと思う。にわかでぶれぶれの李衣菜が、でもその素直さと熱により、こういう形で自分の核を見出した。みくといっしょに、てアニマス春香の「みんなと、いっしょに!」と同質でもあるのですけれど。みくの「李衣菜ちゃんを信じる」という言葉が、自分は自分で精一杯アスタリスクを頑張る、という意味であったのにもなるほど、と。ステージの成功から始まったアスタリスクが、ステージの失敗を通してより強い絆を得た、という話なんです。つまりアイドルは関係ない、人格の話だとも言える。だから好きなんですけれども、私の場合。
●時計の文字盤、6時53分に。
●廊下でプロデューサーから声をかけられる李衣菜、夏樹からの差し入れと伝言を受け取る。初めて夏樹のステージを見たライブハウスへ向かう李衣菜、空の会場にステージ上の夏樹。「ここ、デビュー前からよくバンド仲間とライブやってたんだ。とにかくロックがやりたくってさ。のってくると何時間でも夢中になって歌って。メチャクチャだったけど、楽しかったな。このステージで、だりーと歌いたいと思ってさ」。困り顔になり、「やっぱり私――」と言いかける李衣菜に、「ロックだと思えばそれがロック、だよな」と夏樹。「お前の思い、響いたぜ。おかげであたしも、ふっきれそうだ。だから解散ライブだ。だりーとなつきち、一度きりの」。
●夏樹も、自分にとってのロックを見い出し、それを語っています。李衣菜はあこがれた夏樹に誘われてうれしい、でもみくと共に歌うのを選んだから断らなくてはいけない。そこで李衣菜の口癖を持ち出す夏樹は、つまりこれはアイドルとしての正道じゃない、と言ってるわけです。感情のおもむくままの「メチャクチャだったけど、楽しかった」をやりたがっている、それを思い出させてくれた李衣菜と。お前のロックであるアスタリスクを頑張れ、とも言ってるわけですよね、最後の言い方は。
●入ってくるシンデレラプロジェクトメンバー達。「今日は盛り上がっていこうぜ!一日限りの限定ユニット、にわかロック!よろしく!」という夏樹のMCに「にわか!?」とあせる李衣菜。ギターでアスタリスクの曲「over!!」を奏で始め、李衣菜にウィンクする夏樹。「李衣菜ちゃん!思い切って行くニャ!」とみくの声援。笑顔でうなずいた李衣菜、ステージ上で歌い始める。笑顔で歌う李衣菜に観客席のみくも笑顔、と彼女に伸ばされる李衣菜の手。みくもステージ上で歌い出し、ここでつながれるみくと李衣菜の手!オープニングでは離れている手が!ステージで失敗した「over!!」が、それの生んだ絆と共にこうして完遂されたわけです。
●美城常務にロックバンドを抜けることを伝える夏樹。「誰かの言いなりで歌うのが、私にはロックと思えないんでね。」去られた美城常務は、パソコンディスプレイで凛・加蓮・奈緒のデータを閲覧。エンディングはみく・李衣菜・夏樹・菜々!あとキャストの並びが、ニュージェネ組の次に夏樹だった。