「アイドルマスターシンデレラガールズ」19話前半(プラス16話)

二期に入ってから個人的に乗れてなかったアニメ版デレマスですが、19話は楽しんで見れたし、好きな脚本家である土屋理敬の担当だったし、ひさびさに感想記事。またみくりーな回かよ!
なお原作ゲームのボイスドラマでは今回の話の結構な種明かしがあるらしいのですが、ガラケー使用者の私は聞けずにスルーです。解釈間違っとるかもしらんが、アニメのみ見た心持ちのリアルを書きつけ。そういうのってロックじゃね?(意味不明。)


  • 第19話「If you’re lost, let’s sing aloud!」

●サブタイトルは「迷ったなら大声で歌おう!」といった意味か。アニマス20話「約束」脚本担当でもある土屋理敬です。
●開幕から「だ・か・ら!」とハモった、前川みく多田李衣菜の怒声。11話でさんざ見せられた意気のあったケンカ中、相変わらずの二人。
●みくと李衣菜の言い合い。「ステージをネコ耳とふわふわの飾りでいっぱいにしたいって言ってるニャ!」「そんなのロックじゃないって言ってるの!」「ロックって具体的には何をどうするニャ?」「それは・・・考え中だけど・・・」「舞踏会までにパワーアップしなきゃいけないのに、そんなんじゃまにあわないよ!」腕組みしながら“ニャ”を付けずに言うみくの、素のプンスカぶり。



○で、この会話に出てきているのが今回のテーマです。多田李衣菜にとって「ロック」とは「何」か。ちなみに、“みくにとってのロック”、もとい彼女の核にあたるものを描いたのが16話、高橋龍也脚本回の安部菜々とみくの話になります。菜々は今回のエンディングにも出てきますし、話としてつながっている。
○16話のラストで、みくと李衣菜は次のような会話を交わしています。「やっぱりアイドルにキャラは大事ニャ!」「(苦笑しながら)やっぱそこなの?」「もちろん!(猫ポーズをとり笑顔で)みくは自分を曲げないよ!」「(笑顔でウィンクして)そういうの、ロックで嫌いじゃないよ!」この時の、李衣菜の表情がいいのです。

○左側の画像が16話の李衣菜。「自分を曲げない」というみくの「ロック」を肯定した顔です。そして右側は6話(土屋脚本回)の李衣菜。ニュージェネレーションズ初ステージ前に、「私(わたし)的にはもっとロックな衣装の方がいいけど、それもなかなかいいじゃん」と凛に笑顔でウィンクしてみせる場面。顔はこわばってるし声音はたじたじだし、「ロック」ととりあえず口にしてみせている感がすごい、この時点では。それが16話では、“パートナーの姿勢”を自分なりの肯定として「ロック」だと断言できるようになったわけです。
○ちなみに。11話でみくと李衣菜を「相性のよいユニットだと思います」と言ったプロデューサーがそう発言した根拠とは、高橋脚本の8話中にて、私物の持ち込みに賛成する一同の中で彼女たちのみが反対するのを目撃したことによると思われます。二人で「みくは仕事とプライベートはきっちり分けたい派ニャ」「まあ今の事務所の感じ、クールで嫌いじゃないけど」「珍しく気が合うニャ」と話していますし。
○で、それをアスタリスクの物語の起点だと考えると、高橋脚本8話「I want you to know my hidden heart.」(みくと李衣菜、気があう)→土屋脚本11話「Can you hear my voice from the heart?」(みくと李衣菜、ユニットを結成する)→高橋脚本16話「The light shines in my heart.」(みくとウサミン)と、サブタイトルに「my(私の)」と「heart(心)」を3回続けてきた上で、今回の土屋脚本19話、李衣菜と夏樹の物語になるわけです。



●さて19話。美城常務は木村夏樹のデータに目をつける。
●この回を見た後だと、オープニング映像でそれぞれユニットメンバーが手をつないでいる中、みくと李衣菜だけは手をつながずに一緒に走っているのも感慨深い。先に書いておくと、「アイドルマスター」が劇場版までで描いた765プロの物語、“それぞれの内面がすでにバラバラでも、各々の意思があれば共に輝ける”にもっとも近い形としてあるのが、シンデレラプロジェクトの中の彼女たちではないかと。現時点では。
●みくと李衣菜の口げんかを見ていたニュージェネレーションズの三人、レッスン着を着て移動中。「私達も何か新しいことやってみる?」という未央の問いかけに、「私は、このままやってきたことをしっかり続けるでいいと思う」と凛が返し、「そうですよね!」と卯月が笑顔で賛同。
●このやりとりにおける各自のスタンスは、これまでにも描かれています。卯月の「もっともっと頑張ります!」という邁進ぶり(14話)と書けない企画書(15話)。今回同様にみくと李衣菜の無謀な企画の出し合いを見ていた未央の「よし!私たちも舞踏会に向けてパワーアップしちゃ――」という発言(16話。結局さえぎられてしまいますが)。そして凛はいまだ「楽しくなる途中」(14話)なのです。
●未央は卯月の言葉に笑顔で、しかし何も答えずにレッスンルームの扉を開き挨拶。レッスン中の美嘉・加蓮・奈緒。ニュージェネレーションズの曲で練習中、という三人に「私達の曲で!?」と驚く卯月、照れる未央。練習として一緒に歌い出す凛・加蓮・奈緒。反応する凛、「へぇ、いい感じだねー」と笑顔の未央、呆けた顔から「あ、はい」と言って膝頭を抱く卯月。“今を失う”ことへのおびえですよね、卯月の反応は明らかに。
●エレベーターから降りてくる常務、輝子と涼、部下社員。輝子は11話にて、みくと李衣菜が目玉焼きに何をかけるかでケンカしてるのをあきれた風に見ていた人物ですけれども。対岸としての符丁?
●レッスンルームの扉を開く常務。凛・加蓮・奈緒の歌声に反応を示すが、そのまま入室。社内オーディションのため6人は退室。
●「具体的なアイディア・・・私の中のロックなイメージ・・・私も早く考えなきゃ」とつぶやきつつ、自販機で飲み物買っている李衣菜。「え、木村夏樹ちゃんが!?」という未央の叫び声を耳にして廊下をのぞきこみ、「彼女を中心にアイドルロックバンドを立ち上げる、て話があるらしくて」という奈緒の言葉に驚く。帰路の電車で、14話での夏樹との出会いを思い出す李衣菜。「ロックな話ならいつでもつきあうぜ」という夏樹の言葉。
●事務所に来た李衣菜、彼女を追い抜いていくバイク。バイクを止めた人物が、ヘルメットをはずすと現れる夏樹の顔。余談だけど、土屋理敬がシリーズ構成の「プリパラ」におけるバイクの使われ方はすごひどかったね(おもしろいけど)。
●ロックバンドの話を尋ねる李衣菜に、「話はよくわかんなかったけどおもしろそうだし、とりあえず飛び込んでみるのもありかなあ、と思ってさ」と夏樹。「なつきち」「だりー」と呼び合うことにする二人。ロックの趣味についてくわしく聞いてくる夏樹に、冷や汗身もだえでしどろもどろの李衣菜。この場面の具体的なディティール連呼がちょっと好き、わからなさがおもしろい。最終的に目をそらす李衣菜に、すっと自分の曲のデモCDを差し出す夏樹。気づいてるんだよな、きっと。伸びをしながら、「やっぱいいよなーロックは。新しいバンドのメンバー、いいサウンド持ってる連中だといいんだけどな」と夏樹。ほほを染め瞳をゆらしながら彼女を見つめる李衣菜。14話での出会い以来の憧れです。
●CDプレイヤー、空のCDケース。ベッドで片ひざ立てて夏樹のCDを聞いている李衣菜、リズムにのっている。ショップでCDを選び、音楽雑誌を読み、本を見ながらギターの練習をし、ライブハウスに出かける李衣菜。夏樹のステージ。最後尾で笑顔になり、「えいっ」と腕を上げてちょっとだけジャンプする李衣菜、にわかわいい。舞台裏、興奮と喜びを伝える李衣菜、礼を言う夏樹。「今度いっしょにライブ見に行こうぜ!」「うん!」
●みくと李衣菜。グラビア撮影中、ぼんやりしていてカメラマンの指示を聞き逃す李衣菜。プロジェクトルームで方針の相談中、「今度のライブでも、何か新しいことやってみよう?みくは、思い切ってセクシーなダンスに・・・」と言いかけて、また李衣菜がぼんやりしているのに気づくみく。「もしかして悩み事?だったら言ってほしいニャ!みくは李衣菜ちゃんのパートナーなんだから!力になりたいニャ!」こういう時は怒らないんですね、みくは。ごまかす李衣菜、不審げなみく。
●CDプレイヤー、その周りに数枚のCDと音楽雑誌。ベッドに横になっている、ヘッドホンつけた李衣菜。起き上がり、外したヘッドホンを見つめて「何やってんだろう・・・私」とつぶやく。



○さて。李衣菜が夏樹にあこがれたこの時点で、みくと菜々を描いた高橋脚本16話についてふり返らせてくだされ。
○16話の菜々はまず、15話でその理想的アイドル像の描かれた楓との落差、という形で登場します。私生活では疲れ気味の菜々も、ひとたび外に出ればウサミン星出身アイドル。そのキャラを守り、励み、ある程度の人気は得ている。そんなアイドルもいて彼女もまた輝ける、という話でした。楓とは異なるアイドル像の提示と肯定。まず冒頭でプロデューサーが「個性」という言葉をもって、(楓を誘い、菜々を否定することとなる)常務と対立するわけですから。
○そんなウサミンに、ネコ耳キャラのみくはあこがれることになるわけです。面と向かって「みくは感動したニャ!ウサミンコールが始まった瞬間から空気が変わって、すっごくキャラが立ってたニャ!」と菜々を讃え、その後のシンデレラプロジェクト内の話し合いでも「かわいくてインパクトのあるキャラでお客さんにアピールするのが、舞踏会に向けて一番いい方法だってみくは思うの」と発言する。その心境の中で、「菜々ちゃんこそみくのライバル、ううん、目標なんだって!」と直接告げる。おそらくこの時点では、観客の反応を引き出す、その為のキャラであることへの賛辞とあこがれが大きい。選択的手法として見ているわけです。(なお、この時に李衣菜は目をそらして「目標か・・・」と小さくつぶやいている。)
○実はこの点、個人的にちょっと引っかかってた点でして。みくのネコキャラは天然ではなく、商才でもある。16話中でも「ネコはみくにとってアイデンティティだニャ!」と言いつつ「ネコ耳はお仕事に大事なアイテムなの」とそれを効用として解説してもいる。ふり返れば11話でも「ネコ耳は商売道具ニャ!」と明言していた。(対してこの時の李衣菜は、ネコグッズだらけのみくの部屋に「へぇ、意外とロックかも」と真顔で言う“天然”ぶり。)もちろんそれは才能としての魅力であるし、アイドルならば不可分な要素ではあろうが、それを物語としてキャラクターの根っこと見なせるのか、というのが個人的にはあったわけです。しかし16話後半で、みくの意識は少し変わったように見える。
○会社の新方針に従い、ウサミンキャラをやめようとする菜々に、涙ながらに訴えるみく。「菜々ちゃんにとってのウサミンって、その程度のものなの?」「みくは菜々ちゃんを見て素敵だなって思ったよ。ウサミンパワーでみんなを盛り上げて、みくだって勇気づけられたもん!」それが失われるかもしれない、という時に自覚する切実さ。「みくは(・・・)素敵だなって思った」、「みくだって勇気づけられた」と、前川みく個人の体験としてある、サブタイトルに「The light shines in my heart.」とあるよう私的な心の領分としての(みく・菜々どちらともとれるわけですが)、安部菜々というアイドル像の物語なのです。
○で、16話がおもしろいのは、菜々回であると同時にアスタリスクの物語でもあるのは、ここで“アイドルとしての”みくの想いを伝えただけでは菜々が動き出せない点でして。まずもってみくも、自分からは動けない。プロデューサーに「キャラなんて・・・自分のやり方なんて、変えちゃうべきなのかな」と迷いを告げた時に、みくが「本当に笑顔になれる方法」を決断するのを李衣菜は待っている、と聞かされて走り出すわけです、ネコ耳つけてウサミンコールを叫ぶわけです。「自分のやり方」を見出す。みくのその観客席での姿に、ウサミンもアイドルとしての自分を取り戻す、決断をするわけです。そして実際に観客たちも、笑顔でわいてくれた。
○この流れ、11話ラストのアスタリスク初ステージにも重なるんですよね。コールを呼びかけても芳しくない観客の反応に、困り顔になったみくと李衣菜が視線をやった時、うなずいて続行を求めるプロデューサー。それに対してもう一度笑顔になってうなずいてみせ、コールを続け、観客をわかせるアスタリスク。自分のやり方を貫く輝かしさと同時に、それを信じて支える存在がいる、という物語でもあるのです。
○16話でステージ終えた菜々のセリフも、「みくちゃん、ありがとうございました。最後にちゃんとウサミンのお仕事やりきれてよかったです!」ですから。殉じる覚悟もあったわけですよ。(ロックだ!)しかし「みくや菜々ちゃんの大事にしてること、みんなに認めさせてやるニャ!」という言葉をかけられ、ウサミンはシンデレラプロジェクトに参加することとなる。その後にみくが「やっぱり菜々ちゃんは素敵なアイドルニャ。みくも負けてられないニャ!」と言っているのが、ちょっと気になる。これ、ウサミンを目標ではなくライバルとして見ている発言ではないでしょうか。あるいはキャラを演じるアイドルであっても、方向性はそれぞれだと自覚した。ネコ耳アイドル・前川みくアスタリスクのメンバー、ですからね。といったところで、19話感想に戻ります。