ハルタ 2017-MARCH volume 42

  • 帯裏にて、丸山薫『図書室のキハラさん』新連載。絵物語だな、これ。横長コマの力。

●サワミソノ『丁寧に恋して』/新連載。まず前号の感想記事で、予告カットの印象を“ハルタ読者層考えてか絵柄を変え過ぎでは”と書いたのだが、本編では特にそんな兆候もなく杞憂であった。作家性への不遜による発言だったという他ない。すいませんでした。/内容は地に足の着いたドラマツルギーで、大変好みな世界。日常で生活で、その中に息づく感情。貧しさを“リアル”の範疇としてこのさじ加減で描けるのは、作者の“地方”の描写力と地続きである。所作による感情表現がガジェットではなく構成力である点、他の一部の作家も見習ってほしい。/あとこれ、アオリに出すほど「三角関係」か?まだ誰も言葉としてその意識を出していないのが、物語としての勘所ではないか?気をつけてプロモーションしないと、読者は馬鹿だぞ(真顔)。
入江亜季『北北西に曇と往け』/落ち込んだ時にはメシである、肉である。まあどちらかと言えば、今回はそれを育むアイルランドの自然描写メイン。
九井諒子ダンジョン飯』/別パーティー編。こちらは人(形態)同士の殺し合い、というシビアな一面。主人公側も一応、炎竜戦で“対等”の命の奪い合いには踏み込んだが。MMOにおけるPK的な、と設定としてのメタな読みも可能ながら、しかしファンタジー世界描く想像力に着地させるのが本作で、シリアスな内容である。カブルーの「魔物や迷宮は不用」という発言は、主人公サイドの面々の魔物やダンジョンへの好奇心と真っ向から反発するわけで、今後物語においてどう関わるか。/動き見せる場面での断ち切りコマと斜め枠線の使い方もさることながら、そこに読者の視線ならした上で出す長方形コマの中の話の淡々とした重みがまた巧い。
●宮永麻也『ニコラのおゆるり魔界紀行』/連載化。
●中西芙海『巨人住まいのススメ』/読み切り。ホウキ魔法現代少女の読み切りの人か。すごくおいしい場面なのにもったいない、という形で技術の追いつかなさ感じる部分は多いものの、ファンタジー世界のセンスは好きである。ホラ吹き不足だからな、今の誌面。*1
大武政夫ヒナまつり』/なんというか、この可愛くない絵柄であえてロリおばさん出すこと自体ふくめ、ドライなコメディだよな。
●井上きぬ『まだ見ぬ春の迎え方』/え、留学って。「まだ見ぬ」はそういう意味で、相手出さずに進んでいくわけか。
樫木祐人ハクメイとミコチ』/危険(物理的に)な秘密の食事会。そも誰に対して秘密なんだって話だが、法や警察機構的な存在でもあるのか。長い迷路の先にあるのは空の下の金網焼き(大)、よい光景。動物と話せる世界で、となると貝類は食用として安全な選択ではある。
●大槻一翔『欅姉妹の四季』/新連載。
近藤聡乃『A子さんの恋人』/A太郎とU子、そしてヒロ君。U子はキャラ的にいじくる側なんだけども、その性格と茫様とした瞳は他人を見透かす立場にも転じるわけで、酔った上なら。A太郎の鏡像と回想は前回の“白と黒”つながり。デフォルメされたキャラ造形ながら、おんぶとか殴打とか上手い体重描写だし、この顔のアップでしっかり内面表してるのが構成の巧さ。背景の精緻さもキャラの視界となり心理描写として機能、それがラブホテルっていうのがまたね。A太郎とU子はかつて関係持ったことあったのでは、というのもちょっとにおわせる。で、しかし遊び仲間として一瞬振れたのち、真面目に生きるヒロ君のイケイケドンドン攻勢でU子さん人生確定、てのがこの作品らしからぬ成就でありダイナミズムであり、エンタメ逆襲きた!って感じでよし。やっぱり“面白い”ドラマなんだわ、これ。
●渡邉紗代『B/W』/一応、ギャンブル漫画らしく心理戦の側面も入るか。しかしページ割くのは別要素なんだよな。
●原鮎美『織子とナッツン』/エピローグ。主人公の恋愛についてはここまで、というのがフォーマットとしての正しさ。それが作家性の不自由に映る私は、まあ読者としては不向きだったかな。お疲れ様でした。
中村哲也『ネコと鴎の王冠』/口に泡のつく感触→においをかぐ→勢いよく飲み込む→吐息。題材的にもビール味わう場面は一つ見せ場であり。工場拡張を語る場面での、コマ毎に運搬車が移り変わっていくのはいい演出。商売は進み続けるもの、か。麦ジュースは、ドラマ版孤独のグルメ見てると違うもの想像してしまうな。
●浅井海奈『夜の中へ』/読み切り。BLですかね。
西公平『ゲス、騎乗前』/新馬戦まで主人公の入院で時間とばすって、斬新な展開ではある。布石は置いてたわけだが。
●緒方波子『モテ考』/成田山で断食修行、て前回のオチ本気だったんかい。言われてみれば、確かに仏教ネタ漫画は少なくない。
●百名哲『陸軍ナポリタン』/シリーズ連載。“ある男”の一代記、としての偽史もの。『深夜食堂』のナポリタン回も外国人主役に落語ネタという妙な味わいだったが、変なイマジネーション想起させる混合物としての存在感はあるのかも。晩年にこそ燃える執着とは、良きおはなしのたたずまい。一定調子が“説明”感強めてしまっているのが惜しい所で、この内容量で32ページは難しいよ。
●藤田弘明『いつものおんなのこ』/読み切り。前号の予告ではホラーとしてアピールしていたが、ガジェットとして理屈通っていると個人的には楽しさが先にきちゃうんだよな。構成にカタルシスもあるし、伊藤潤二や藤子F短編みたいなノリでおもしろく読めた。引いた視線が生かされたセンス。
●浜田咲良『マシュマロメリケンサック』/えー、前回の展開でおもしろくなってきたと思ったら、そっちに舵切っちゃうか。完全に余談ですけど、昔の仲裁屋ってのは道端の犬殺して血かぶって割って入るような真似してたわけで。
長崎ライチふうらい姉妹』/最終回。キャラカットがメインのエピローグと言うべきか。お疲れ様でした。


  • 次号、高江洲弥新連載。しかし予告の「前作『首花は咲きゆく』から一転、最新作はメルヘンで可愛いファンタジー!」というアオリはどうか。前作は、あれはあれで十分にメルヘン、かつ可愛い、かつファンタジーだったろうに。

*1:しかし最近のハルタ誌面見てると、読み切りほめる場合は「設定が好みでアフターシチュエーション見たい、とかじゃねえんだよ!あくまで褒めてるのは“作家性”であって、あなた方編集者が何か形に育て上げてくれって言ってるんだよ!」と、わざわざ念押ししなきゃいけないんだろうか。