ハルタ 2017-AUGUST volume 47

  • 裏表紙『ハルタカルタ』は「なつざしきとかれいはえんがわがいい」。屋根瓦をカレイ風に、かつ庭には珊瑚と海藻。



樫木祐人ハクメイとミコチ』/自宅リフォーム回。常在戦場、プロフェッショナルというやつだ。身長差あるキャラを同じコマに納める描写も、工夫されているな。/付録絵本も大変よい味わい深さでした。

佐野菜見『ミギとダリ』/空中対面の絵力よ。

九井諒子ダンジョン飯』/大破壊、と同時に、ダークファンタジーたる戦慄の見開きに特大フォントでボケをかます破壊力。ただこれ真面目に考えると、シュローとカブルーの言う主人公の(無自覚な)内面のずれという脈絡であるし、続く悲劇展開ではそれを逆方向から問われることとなる。読者にとっては、世界観前提のメタネタから物語への転換という形に重ねて読めるわけで。人型モンスターの不気味さ、殺戮劇の恐怖と緊迫を活写しつつ、随所にまんが的抜けがある、この巧さ。

●緒方波子『ラブ考』/新連載。彼氏できた前作からの続編。本当、飾らない人柄だな…(好意的表現)。

●得津宏太『そこのけ☆超特急』/読み切り。曖昧なタイトルにコマ単位でしか見映えしない絵柄と設定、全体的な構成としては微妙、という新人らしさだが。まあ最近のクソこじんまりとした異日常(とでもいうのか)ふんいき読み切り群よりは、派手エンタメ見せようとする分だけマシかなと。

●設楽清人『忍ぶな!チヨちゃん』/見開きご対面から想いの告白、いいシーンじゃないか…と思わせてやっぱりおとすか。まあシリアスも描く力量あることが示されてよかった。

森薫乙嫁語り』/白い馬群に一匹黒い雄馬、という絵面でやっぱりマキバオーモンゴル編が連想されてだな。去勢はされてるんだろうか。あらためて、万感の抱擁。

●サワミソノ『丁寧に恋して』/うわー、ここでひっくり返してくるか!/家族との休日という学園マンガ文法でない、生活感の中でこそ浮かび上がる困窮、金の重さを、少年と少女の日常描写の間で、それぞれ前回までの(読者が見てきた)立ち位置とまでも対比させて見せてくる。上手い。共通モチーフとしての、洗濯や下着というディティールの効きも抜群。双方の料理描写が間違いなく愛の形で、異なる形の切なさとして共に立ちのぼる、いいですよ。積み重ねで局面よ、物語の。

大武政夫ヒナまつり』、山本和音『星明かりグラフィクス』/依存ネタ作品が並んで掲載されてると、相乗効果で笑えてくる。

なかま亜咲『カニメガ大接戦』/最終回。我々は、このペンギンを知っている!

近藤聡乃『A子さんの恋人』/A君の(家での)逡巡が大部分の今回。以前、A子とA太郎が(仕事で)一夜を共にする回の感想書いた際、私はカケアミと黒ベタの表象にこだわっていたが、絵的にはそれと対になる側面もありつつ、しかしA君の場合は前面化まではいかないと。/画風相まっていかにも平面的な、机の前に座るA君の後ろ姿からの導入。そこから、角度をつけ寄りアングル回転し引き回想に入り同じ構図くり返し移動を分節し横長コマに同一人物複数配置し、とA君が移動し思考する様を見映えさせつつ読ませていく。そこで描かれるのは彼の、A子との過去にも縁のある選択を前にしての逡巡であるが、挟まれる回想においてまず恋人状態を提示し(セックスジョーク)、続いて当初の険しい態度、やや軟化、という順でコマを見せてくるのが面白く、“縁もまた強調されることとなる。/続くA君の回想。ここで彼は、A子の寝ている(意識のない)部屋を離れ、彼女が見せなかったデビュー作(それはA子とA太郎の縁の形でもある)を読む。A君にとってはそれは、しかし“完成”と映っていたのだな。“続き”は、それを求めるA子の姿勢として見たがっていた、とこれは巧い逆転である。この場面で、夜の部屋の暗がりとして、ベタとカケアミが若干のぞく。/そして、思い出の品を見つけた、回想と現状がつながったA君はA子に電話。本作の電話シーンにはその表現力の際立つものがいくつもあるが、今回も、冒頭から家で悶々と悩んできた(内面描写されてきた)男の右ページ(最終コマ「トルルルル」)→左ページの東急ハンズ・女(1コマ目「リリリリリ」)という接続に、読んでいてグッときた。またこのハンズの構図が、エスカレーターの描写が上手いのだ。/共有する過去、ガジェットについて会話する現状カップルの二人。作品を共有するという関係であり、最後のプレゼントも含め“洒落た関係”だ。ラストのコマはしかし、冒頭のコマと同じ構図に影がさした、という絵でもある。A太郎も異なる形で、A子と“作品を共有”した関係ではあったのだよなだった。今も、か?

山本ルンルン『サーカスの娘オルガ』/これはまた何というか、愛ではあるのだが。バカになる、でも最高、か。左ページ右下コマのアングルや会話中の視線というやりとり等、読んでて気持ちいい画力、作家意識が詰まっている。

●高江洲弥『ひつじがいっぴき』/リョナまっしぐらという感じだが、なればこそ戦意の目覚めにも紙幅は割かれると。外部からの攻撃は防げても内面のそれは防げず、自己の一部を外部からの闖入者で倒す、というシステムは一貫してるのか。諸々未分化としての“少女の夢”というモチーフではあろうが。

●長蔵ヒロコ『ルドルフ・ターキー』/ヒロインのエロ同人みたいな格好に漂う、やっぱり女性描写にはそうこだわりないのかな感。

●浜田咲良『マシュマロメリケンサック』/最終回。もっと異常な作品(序盤でふれた柴田ヨクサル的ノリ等)になること期待してたんだが、この王道オチもそれはそれで。お疲れ様でした。

●進美知子『今日の柳子ちゃん』/最終回。不定期連載で8ページを全3回。長い尺描かせた方が映える、描き通す力量がある、現誌面の新人の中では珍しくそれだけの才能見せている作家なのに、短編がちょっと好評得たらホイホイ引き延ばしで連載化しようとする編集側の失策としか、私には思えん。/それはそれとして。このページ数の中でも、俯瞰から真横へのアングル切り換え、全体像・パーツ・大ゴマの一部といった注目箇所にあわせた画面構成、縦長コマを上から下に視線移動させることによるパン効果、といった技巧が発揮されているわけで、次回作にも期待したい作家性だ。お疲れ様でした。

●比嘉史果『真昼の百鬼夜行』/暗い幕切れであるが、この作品にしては珍しくすっきりした終わり方に思えるし、個人的に好み。因縁が完結見せているからかな。