ハルタ 2016-OCTOBER volume 38

●嵐田佐和子『青部高校あおぞら弓道部』/新連載。弓道マンガで思い浮かぶのは成田美名子『NATURAL』と福島鉄平の読み切りくらいの身なのだが、それにしたってアメリカで覚えたという設定は奇抜というか。才能見出だすのは先生だけど部自体は無い、という点も。
森薫乙嫁語り』/顔っ…!!おしゃべりと縫い物。作者がこの刺繍というギミックを描き手として好きなのはもちろんだが、その背景にあった人の内実は強制ミッションでありさぞ面倒くさかったろう、てのはね。美化のなさが好ましい。
大武政夫ヒナまつり』/見開きで、刃牙のデート中に背後で始まる花山対スペック戦思い出した。
樫木祐人ハクメイとミコチ』/夫婦の光景。皆の胃袋つかんでるおかみさん。出だしの酒瓶と煙草傍らに寝てる会長、という図も字にするとなんだが、“職人”がソフィスケートされて出てくる作品ではあるのよな。そのファンタジーは私好きだし、贈り物エピソードとしての建造や、仕事と一体の食事会や、いさかいの原因たる刃研ぎと手拭いや、今回もおはなしとしてよい着地。親方も起きたら即顔を洗って、乾くまでの時間経過表現。異種婚ありの世界なのか…。
近藤聡乃『A子さんの恋人』/↑のファンタジー世界仲良し夫婦に続けてこの内容、てのもなかなか。/扉絵1ページ大A子の顔から始まる、全編A子の述懐、恋人二人とのやりとりの回想。扉の顔からまず、A子の現状を描く見開き2ページで左向きA子を連続14コマ、チューニング。続く「捨てる」会話の場面では、構図やキャラの位置変えつつA君の挙動はコーヒー作りつつ、受け答えする吹き出しと逡巡するA子を構成でスムーズに読ませる。再び現状、室内動き回り悩むA子。その次の回想場面で、左向きA子10コマの右ページ、左向きのA子の背中4コマ(1コマさらなる回想のカットイン)の左ページ。ここからA子は移動し、A太郎とのやりとりでも場面転換が頻繁に起こるが、それらは内面に寄り転換、という語りの繰り返しとなる。A子の一方通行かつ途絶されるモノローグの連続(意識的に言わせないA太郎の挙動もあわせ)、会話主体のこの作品で描かれる“伝えられない”様。その上でのセックス描写、と言うとなんだが、実際ここ
でアップに寄る、闇の中での白と黒という描き分けにキャラクターがなる、吹き出しだったモノローグが四角枠(コマ内コマ、ナレーション)になって内面が逆転する、と一つ山場としてある描写だ。A子とA太郎の関係が続く理由となった言葉、その背景。右ページ最終コマにて「えいこ」呼びが「A子」になり、回想の丸角コマ枠線と一体化した吹き出しに収められ、続けて左ページ1コマ目・四角コマ内の「A子」表記(文字の絵)に転換、回想から現状の中へ。で、現在のA子はあくまで仕事を意識している(セリフに明文化される形では)のであり、恋愛事情としての脈絡は読者側が回想(再生)から勝手に読み取る、という構成なのがおもしろい。その上で最後のコマはメタツッコミとしての同居というか、無意識のはずなのだけど自覚という意味も漂う。安永知澄に「これはおそらく罰なのだ でも誰の?」と締めた短編あったが、個人的にはそれとの異層も感じたりね。
九井諒子ダンジョン飯』/古代ローマに大衆浴場があったのだから、ここでヒロイン入浴シーン出てきても問題ないテルマエ。蘇生、もとい新規作成したファリンの体にも子供の頃の傷は残って(?)いる、とさらっと設定語り。ボス討伐を経て、次は帰路とアイテム持ち帰りのターンになるのだろうか。竜涎香は唾液腺の結石。火を吐く竜ならば燃料も耐火性も備わっており、食肉はもちろんのこと調理にも利用可能と。ファリンについては、センシの「食い返してやれ」というセリフも強烈だが、現状その食材によって組成されており、さらにマルシルの回想に出てきた研究(テンション上昇の現状)考えるとどんな位置づけになるか。以前のライオスの回想も、魔力増大の背景に関わりそう。(ライオスの反応からすると、この幽霊(かな)もファリンにしか見えていない?)兄妹の抱擁と見守る仲間達の場面はいいね、髪な。
●柴田康平『どぼん』/読み切り。変にエロス感じさせる造形。
入江亜季『北北西に曇と往け』/引っ張って手間かけての、拍子抜けすれ違いオチ。現実そういうもんかもしれんが。
長崎ライチふうらい姉妹』/ストーリー漫画編。乙嫁語りと縫い物ネタかぶりだ(えー)。あのつぎはぎだらけの服は趣味であって、貧乏設定ではなかったのか。姉と同調し戸惑わせるキャラ、好き。
中村哲也『ネコと鴎のクローネ』/ヒロイン愛で回にして告白回にしてカップル成立回を40ページかけてじっくりと。全体の3/4かけておめかし姿での日常ふれあい(微量サービスショット)描き、残り1/4で決めポーズ立ち絵からの喫茶店での思い出話からの過去の謝罪からの赤面上目遣い問いかけからの告白からの涙目ガッツポーズ成就までをこなすのだ。可愛いと綺麗の描き分け。個人的にはベタながらやはり、二人にとってのディアンドルという背景語りの場面がいい。ヒロインのカッコいい笑顔ですよ想いですよ、田中ユタカチックですよ個人の見解です。構成で読ませてくれるのが楽しいんだよな、やはり。
●宇島葉『世界八番目の不思議』/幽霊の就職と結婚式参列。オチはハッピーエンドだな、うん。
西公平『ゲス、騎乗前』/一流の営業、という圧倒的パワー。それを目にした主人公に芽生える新たな誓い、と邪道の中にあっての王道展開だわな。
●長蔵ヒロコ『ルドルフ・ターキー』/パトロンは喜ばせてこそ。悪には悪よ。
久慈光久狼の口 〜ヴォルフスムント〜』/最終回。王と、ある平民と。殺し合える、殺意を見せつけるようになれた、という人間同士としての内実の獲得でもあったんだよな、この勝どきの声は、立国の物語は。長い間お疲れ様でした。
●川田大智『まかろにスイッチ』/最終回。作家性というのはここからの上乗せなんだよね、私には。


  • 次号、長野香子が読み切り掲載。