もりもと崇『難波鉦異本』エンターブレインより再刊行。最高におもしろい時代劇マンガです。

背表紙つなげると濡れ場!な装丁は、『定本 宮本から君へ』定本 宮本から君へ 4と、他にも最近何かで見た気がする。



てなわけで、さて皆の衆。今月十五日、もりもと崇『難波鉦異本(なにわどらいほん)』の下巻、あ下巻が発売され申した。これをもって初の!全話単行本収録あいなり候。見事、見事な全巻!、そろい踏みでございまする〜。(パチパチパチ)

難波鉦異本 上 (BEAM COMIX)

難波鉦異本 上 (BEAM COMIX)

難波鉦異本 中 (BEAM COMIX)

難波鉦異本 中 (BEAM COMIX)

難波鉦異本 下 (BEAM COMIX)

難波鉦異本 下 (BEAM COMIX)



題名に冠された「難波鉦」色道諸分 難波鉦―遊女評判記 (岩波文庫)とは、江戸時代に井原西鶴の記した大阪新町遊郭の記録、と言うと聞こえはいいが、ようするに今でいう風俗ガイド本です(笑)。そして本作は、「難波鉦」のネタ元である大阪遊郭・「廓(くるわ)」を舞台とした、時代劇マンガなのです。
物語の主人公となるのは、女郎(or遊女or娼婦)の和泉(いずみ)と、その禿(かむろ。女郎の付き人)であるささら。ささらの“少女”キャラ、コメディリリーフぶりの愉しさもさることながら、この和泉というキャラが、なんとも「粋な悪女」(上巻帯文より)。欲は深いし頭は回る。胆は座ってて腕は立つ。遊郭という、いかにもな色と欲の渦巻く場において、身一つ立って、肩で風切る現実主義者(リアリスト)。色と欲が「人」のものである以上、情や義だって存在しているその中で、高らかに笑い、胸張って清濁合わせ飲んでみせる。そのたくましさ(≒腹黒さ)、生き様が実にイカす。
そのような魅力を“時代劇漫画”において、描きえている点が見事なのだ。どのエピソードも「時代モノ」として魅力的であり、何より「物語」としておもしろい。キャラ立ちを語る舞台として、しっかり隙のない組み立てが成されている。作者が当時の文献をふまえた上で描くこれらには、綿密な時代考証に基づく重力と匂いが存在し、同時に現代劇的な“軽さ”の味付けも忘れられていない。笑えて、ジンと来る、とても楽しいエンターテイメント。俺、こんなにおもしろい「時代劇マンガ」読んだの初めてだよ!*1



帯文にもありますが、作者のもりもと崇は本作品により、平成16年に手塚治虫文化賞の新生賞を受賞。なんでも審査の席上にて、審査員の一人・呉智英氏が「みなさん、ちょっとこれ見てください」と鞄から『難波鉦〜』取り出し、審査員一同読んでびっくり、トントン拍子に受賞決定したそうな。(ニッポンのマンガ (アエラムック―AERA COMIC)にて、同賞審査員いしかわじゅん氏が、対談中に話しています*2。)
で、もうちょっと受賞の連絡遅かったら、売れ行きの悪さに在庫単行本は断裁されてしまうところだった、そうなのですが、残念ながらその悪夢(こんなおもしろいマンガが読めないなんて!)は後に、掲載誌「斬鬼」休刊・単行本刊行も途絶、という形で現実となってしまったのであります。むー。



しかしこの度、エンターブレインが最終話までを単行本化!単行本未収録だった短編&近世文学研究家との対談も付いてくるぜよ。ニクい、ニクすぎる!もう今年の漫画ベストテンの内二枠は、『難波鉦異本』&『ペット リマスター・エディションペット リマスター・エディション 1 (BEAM COMIX)』のエンブレ超復刊コンビでいいと思うよ!
ちなみにこの作品、「BEAM COMIX」レーベルですが、発売日からして「コミックビーム」ではなく「fellows!」の単行本扱いになります。発売日とタイトル見て、「fellows!」編集部で出すのかあ。じゃあ、ビームの巻末コメントで同作者の『鳴渡雷神於新全伝』鳴渡雷神於新全伝 (第1集) (時代劇漫画ジン)ほめてた森薫の担当・大場氏(最近の仕事では林田球『魔剣X』魔剣X Another Jack 1 (BEAM COMIX)復刊。)、あるいは、『拡散』拡散 上 (BEAM COMIX)復刊、ロビン西短編集ソウル・フラワー・トレイン (BEAM COMIX)室井大資短編集海岸列車 (BEAM COMIX)刊行、とおもしろい仕事してる塩出氏が担当だったりする?と思ってたんですが、実際に奥付け見たら、森岡氏&岩田氏でした。興味ねえ人には、意味わかんねえ話だよ!
森岡氏は、数年来のビーム読者&「とらのあな」フリーペーパー読者(いるよね?)にはおなじみ、広報的には微妙かもしらんが、独特なノリの文体アピールで慣らした、はわわモリオカ氏ですね。現在は、私的「fellows!」内最注目物件・長野香子氏ノラ猫の恋 1巻 (BEAM COMIX)を担当。うーん、長野氏の目指す所、の位相の一つとして『難波鉦異本』があるのかもしれん。違うかもしれん。岩田氏の名は、おそらく初見。



で、ですね。最初に出た単巻扱い「fellows!コミックビーム Fellows! Vol.2 (ビームコミックス)には湯浅ヒトシ氏耳かきお蝶 1 (アクションコミックス)も描いてたことだし、ひょっとしたら、もりもと崇も「fellows!」に執筆?なんて思ったりもしたわけです。森薫乙嫁語り乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)と一緒にもりもと崇が載ってるなんて、想像するだに愉快じゃあないですか。
でも、下巻で描き足されたページ*3を見て思いました。こりゃキツいわ。絵が、まともに描けてないのである。おもしれえ、おもしれえ、と読み進めてきた読者として、私は非常に悲しくなってしまった。理由はわからないが、今は連載執筆が可能な状態とは思えない。
『難波鉦異本』再刊行は、私にとって本当に喜ばしいことだった。だからこそ私は、さらに、もりもと崇の新作をも望みたい。高望み、にはなってほしくないな。



あとですね、隔月刊誌「fellows!」なんですが、流通?は単行本扱いになってまして(帯まで付いてる)、そのせいかどうか、中に単行本広告が一切載らないんですよ。各連載作品扉や柱にて、「1巻発売中」てアナウンスされるぐらいで。
で、これがどういう事態を招くかというと、fellows!」誌内で『難波鉦異本』の復刊は一切アナウンスされてないんですね。編集部が雑誌用のページ広告作んないんだから、同社とはいえ、別編集部で作ってる「コミックビーム」が広報するわけでもなく。一応、週刊ファミ通に載った月単位「fellows!」単行本ひとまとめ広告、で見た気はします。が、それのみってのはどうなのよ。
というかね、一応「fellows!」誌巻末にも救済作か単行本紹介コーナーあるのよ。で、事態が事態だから、ここ逃したら本当に誌面内で『難波鉦〜』完全スルーになっちまうから、いくら何でも今号は『難波鉦異本』紹介すんだろと思ってたわけ。はいドン。最新号該当コーナーでの紹介本は、久慈光久狼の口』でした。えー。



ともかくですね。おもしろい作品なんだから、まずは知らしめていただきたい。つまんないマンガなら、私もこんな苦情書きません。
というかそれ以前に、おもしろくなかったら編集者だって出しません、て話だよね。森岡さん、岩田さん、ありがとうございます。上・中巻出る時はナタリーに情報出ましたが、あれは編集部側からアナウンスしたのかも。アンケート葉書イラストのチョイスも、かわいくてよいですね。帯も造本もいいし。うん、なんだか編集部も頑張ってる、て気がしてきたぞ。
だからアレだ、書店様!平積みするとかしてください、お願いします。装丁がアレかもしれませんが、『ふたりエッチ』平積みするよりは、こちらでしょう!



無茶苦茶言ってますが俺、多くの人に読んでほしい、その価値あるマンガだ、と心底思ってるのは事実です。
オススメ。

*1:へうげもの』も大好きですが、アレは「歴史マンガ」てことで、ひとつ。ちなみに、2007年5月に「KINO」誌が時代劇マンガ特集名乗る号出した際、もりもと崇作品を完全スルーしたのは、「不備」と呼んで差し支えないと思うよ。あんなタイトル群までフォローしてたのにさぁ。

*2:ちなみにその対談相手は、やはり手塚文化賞審査員の荒俣宏氏なんですが、彼をマンガの賞の審査員に入れておいて、なにか役に立つんでしょうかね。

*3:休刊号に掲載された最終回の展開は、明らかに「つづく」見越したぶつ切りラストなのです。そのフォローとして、6ページ描き足しあり。