ハルタ 2019-MAY volume 64

※先々月号です。



丸山薫『図書室のキハラさん』/帯裏連載。コマ間白なしでの連続構図転換シーン好き。オチも軽妙。

高橋拡那『紅椿』/新連載。世界巡りファンタジー百合エロコメ、か。

かまぼこRED『美少年倶楽部の秘密』/付録冊子からの移籍新連載。

佐野菜見『ミギとダリ』/サイコじゃん…。

●浜田咲良『画家とモデルと魚たち』/シリーズ読み切り。見せ場は魚じゃなくモツ(模型)。あんまり可愛く描いたら面白くなくなっちゃうと思うんだけどな、これ。さらに、扉絵でアンケート好評とアピール、定期連載化を予定と、せっかく面白かったのにいよいよ不安だな。現在の編集体制には作家を育てる能力をちっとも期待できないからです。

樫木祐人ハクメイとミコチ』/飲み屋の混雑。わいわいガヤガヤ16ページを、この作者の構成力で楽しく読ませる。他の凡庸な絵柄頼みのハルタ掲載作家が描いたらメチャクチャ読みにくい、もしくは単調になる内容だよな。絵と物語をいかに見映えよく、スムーズに読ませるべく描写するか。ページのめくり、見開きのノドまたぎ、下段コマへの移行等を意識した上で、どう展開を配置するか。どこに尺を使い、どこを省略するか。異なる大きさのコマをどこにはさみ、複数コマによる連続カットをどこで見せ、構図の切り換えと拡大縮小をどこで行うか。それを技術としてこなせるのが巧さである。

●空木哲生『山を渡る-三多摩大岳部録-』/↑とも通ずるが、こちらの作品は読者の意識の上でのシーン・カットのつなぎ方が面白い。

→冒頭4コマ、三人の体を痛めてる描写は一様さを重ねつつ、続くページ下部の暗転と内面。さらにこれが、ページをめくると待つ急転の大ゴマへの前フリでもある。ラフとも見える絵柄ながら、その効果的な使い方に作者は自覚的である。
/「筋肉の声を聴いて!」(※アイマス曲歌詞より)というわけで、新たな山への挑戦はグッと本格的になりそう。登坂中の足の軽さに始まり、目の前の景色=以前登った山、という成長の実感の描写がいい。おやつは大事。

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●原作:百名哲、作画:冨明仁秘密の花園』/読み切り。風俗の女に本気になっちゃいかんよ。『モキュメンタリーズ』序盤を山松ゆうきち的なおはなし文脈になぞらえ楽しんでた身としては、この内容を淡白な絵で抑えて描写してこそ面白いんじゃないか…という感じだが。これも綺麗にすることでつまらなくなるんだよなあ。

●浅井海奈『小悪魔天使ムーちゃん』/読み切り。恐るべき子供の地獄行。淡々と進行するだけにブラックコメディ臭ただよってるのが味である。ラスト前の、右ページ最後のコマ内で左上に飛ばされる→左ページで上から下までの直線的な視線移動の中アングル変えつつ“落下”を読ませる、という構成がおもしろい、

森薫乙嫁語り』/それぞれの会話にも性格、もとい当人の足を着けている世界が出るものだな。

九井諒子ダンジョン飯』/ダンジョン地下一階での戦い。今回はコマ内における右左をやたら直接的に上手下手(かみて・しもて)、作用関係の意味合いとして用いる構成・描写が多いが、ある種、単調なその読み心地が限定空間における移動方向の狭さ(“線”としての動き)にも通じているように思う。つまり演出として意識的なのではないかと。

→たとえば扉絵めくっての冒頭。1コマ目「右」側に「外」への出口があり、モブキャラ達は右側=上手(かみて)=物語の進行方向とは逆側、に横移動を続ける。逃避行動の描写である。主要人物のカブルーも視線を右側に向け、しかしコマの枠からはみ出る≒周囲の動きと同期せず、立ちすくむ。さらに彼が押されて転ぶ描写を、読者の視線の上から下へ、かつちょっと右によれる動きと完全にあわせる形で見せてくるのがすごく巧いわけだが。そしてカブルーにはコマの左側から手がさしのべられ、彼はそちらへ視線を向け、物語に入っていくわけである。

→この見開きも好き。右ページ上段の大ゴマから、視線の下方向移動にあわせてのクラウチングポーズ、下段を左方向へ移動=助走。右ページ左下から左ページ右上への視線移動にあわせ跳躍。左ページでの下方向への視線移動にあわせ、下方向へパンチ。この一連の描写は紙の本の形態で、本のノドの存在をあわせて読まないと、その演出の効果は十全に味わえないと思われる。
/さらっとパーティーの人数制限という設定にも理由付けの発言あり。こういうディティールの上手さもまた。

●佐藤春美『つきたて!餅小町』/シリーズ読み切りショート。膨張餅女。

近藤聡乃『A子さんの恋人』/で、↑に続けて餅食回。美味しそうだけど夏場に読むものじゃない、というのは掲載から2ヶ月遅れで見ている自分の責任だが。こたつで餅食いながらたとえ話は海、というあたりが浮世離れ感。それにしても、このたとえ話は秀逸。

→小ネタにも近いが、この2コマでの吹き出しと餅の形状のシンクロ、という表現は描き手の感覚まで考えてみると面白い点。構成において、吹き出しの位置取りにもすごくこだわる作家らしい意識の仕方。

→あと、この六畳間の描写が上手い。

●設楽清人『忍ぶな!チヨちゃん』/ある意味親父越え、からの急に来たな!

山本ルンルン『サーカスの娘オルガ』/おお、終盤にきて思いきりハッピーエンド、メルヘンへと振ってきた。絵を描くことを失い、しかしかつて見たその幻想を忘れなかったことで、また現実の彼女に向き合えたと。サーカス自体も夢、という話だからねえ。

福島聡『バララッシュ』/マンガにおける感情表現の要は目、というのも最近はあまり言われないかな。だったらあえて、というレベルで今回は目の表現とそれのもたらす緊張・緊迫感がすごい。天才であり脅威である人物から「見てるものが何かわかるか?」と問われた、凡人を自認する主人公・山口が、どういう「目」をするか。

→まず対面時。山口は目を閉じている、または帽子のつばに目が隠れ気味。そんな彼に対し、相手の不破はらんらんと光る目を山口に向けるわけである。続く場面で、山口は不破に気圧されまくることとなる。

→不破の指示を受けて重い表情の山口、そんな彼をじっと見つめる友人で同志の宇部。ここで宇部は構図の接続上、メガネごしではない山口の裸眼を見つめているわけである。その目と表情を見た宇部はこの後、「あいつなら心配ない」とつぶやく。そういう信頼であり絆。


→悩める、呆けている山口と、そこから自分の内面を模索する山口。悩んでいる際は影に瞳が一体化したような絵とトーン。そして、あがいている際はメガネを指でずらし、その隙間からトーンの貼られない目がのぞく。この目は、過程を読んでいくと強く映る、光と読める描写だ。終盤の山口と不破の再度の対面も、相変わらず気圧されているのと同時に、山口の意識の上での抵抗もまた読める。“理解”という形で追いすがる描写なわけである。

→その文脈で言うと、先輩・宮城さんの“怖い笑顔”の目の表現の胡乱さもなあ。