ハルタ 2019-MARCH volume 62

丸山薫『図書室のキハラさん』/帯裏連載ゆえに高さが一定のコマの中で進行する話なわけだが、アップとロング、吹き出しの有無の切り替えでテンポと間を作るあたりが上手さだな。

●渡邉紗代『ギャラクシートラベラーズ』/新連載。

●空木哲生『山を渡る ─三多摩大岳部録─』/田舎の出としても、山の夜の暗さ怖さはよくわかる。この視界のない描写、足元のおぼつかなさはリアルだよ。失敗の内実もレベルによって異なる、という指摘はなるほど。だからこそ、この作品はその差異まで表現するべくディティールを描いてるんだよな。地に足のついた面白みはそこから生まれている。

●宇島葉『大学猫巷談俗説』/連載プロローグ。

佐野菜見『ミギとダリ』/いい話だなー、と一瞬思ったが、いやいや自作自演だか自業自得だかだよ。馬鹿話に宿る純真ということではある。

九井諒子ダンジョン飯』/RPGで見かける一方通行乗り物!というわけで、自動トロッコに乗り込んでの会話回。先頃から背景に描かれ出した機械ギミックは、こういう技術も登場させるためか。

→最初と最後のページ以外はずっとトロッコ内の話にするべく、本編最初の一コマでの発見描写も情報提示と省略が端整。(“移動”に費やした前回冒頭と比較されたし。)
/語られる主人公と妹の過去。大ゴマ内に複数の絵という図示で見せる画力。以前描かれた、少年時代の二人に起きた事態とあわせて考えるになかなかハードである。マルシルの方の回想とも、どこまで描き合わせるか考えられてたんだろうな、これ。
/断ち切りゴマアップから入る、マルシルの涙に見開きの尺使われるのもよいエンタメ感。マルシルとイヅツミという横の位置関係でずっと描写されてきた2ページが、左ページ最下段のラスト3コマで、マルシルとイヅツミ→下方向への断ち切りコマで、マルシルとイヅツミ、下段に座るライオス→ライオス、と間の1コマのみ断ち切りにすることでさらっとアングル変化つないでるのも上手い。
/そして、まさか、あのギャグにしか見えなかった数コマが、そんな衝撃の展開への伏線だったとは。「食」というテーマとこれまでの冒険での出会いがここに帰結する…のか?象徴として出てくる食事風景の一コマが、扉絵になっているかつての各々の食事と対比される点も、また物語としてある。そして、新勢力の介入。あるいは新食客とできるや否や。

樫木祐人ハクメイとミコチ』/そういえばこの世界観、動物が擬人化されてるからには革製品はタブーなのだろうな。羽毛と鱗という抜け落ちる物による服を出してきたのは、明らかに許容範囲さぐってのことだろう。

近藤聡乃『A子さんの恋人』/枠線がトーンの作中作からの導入、めくって扉絵が実在人物のA子とA太郎ながら枠線も題字もトーンと。扉絵の二人のポーズは、今回の作中で登場する時の状態。

→ある種、そこにとらわれないこと、ノイズとしての他人が介在するという話なのだよな、今回。そして同時に、そのコメディ要素でもあるけいこ・ゆうことの別れもいよいよ近づいているらしい、という描写であるのだが。
/A太郎パートはこの絵柄ならではの、やりとり通して構図が180度回ってる描写がよい。立ち話しながら鍵開けて部屋に入ろうとしつつ電話にも出るという動作、マンガとしての分節とコマ内の位置関係、両方の整合性とった結果のこの描写、と見えるあたりがまた巧さ。ここでA太郎は“部屋に入っている”わけだよね、さらに言えば。あと、けいこがかけている電話にゆうこが横入りするコマの、けいこのはみ出し方、左ページ1コマ目にそれをおく点が好き。
/続くA子パートの冒頭も、電話しつつのやりとり描写。A子の状況が主である出だしの右ページから、左ページでは電話の向こうのけいこ・ゆうこのコマとA子の横向きコマが対峙した形になるのがおもしろい。A子の向きを一貫するべく、ここでも構図が回り込んでいる。
/得られるかと思った新たな物語がすり抜け、また物語がわき出てくるも選び取れない状態と。A君からの荷物にはあの2冊も入ってるのかな。

●高江洲弥『タートルネックと先生と』/読み切り。ロリ吸血鬼とカップル未満と。この作者はインモラルを描くことに自覚的で、ゆえにそれが耽美・物語として昇華されていて面白い。

●設楽清人『忍ぶな!チヨちゃん』/ピエロ同士かと思ったら、すでにできあがっている感。

福島聡『バララッシュ』/光と影が描かれる回である。前々回と前回で山口は乗り越えたかと思ってたが、違うのだな。そう振る舞うことを覚えた、という成長で、なので今回は各々の成長が描かれると共に、その中の光と影がわかりやすく表現される回でもある。
宇部と山口が打ち合わせに参加する場面からして、まず良いのだけども。

→上座に千葉監督、助っ人・客人でもある宇部がその脇、山口は外野としてドア近く。一段目での宇部の紹介を受け、二段目は横長コマにて、宇部の対面の二人・下座の一人が並ぶ絵面で宇部への称賛。このコマの左側上部背景に、モヤッと明るいトーンが貼られる。キラキラ、いいムードである。

→このキラキラ背景が、三段目右側、山口のコマまで続いている。そのムード、山口のいい顔を見て、読者の視線は吹き出しに入る、念押しのほめ言葉。しかし、次のコマの宇部は一転して暗い顔と言葉で、それを受けてさらに次のコマでは、山口も暗い表情。背景左上に闇がのぞく。この黒はベタ&カケアミ背景として、左ページ1コマ目の上部にまで続いている。
/なんともわかりやすい、といえる対比の構成であるが、これを成立させる為には席順・立ち位置からして説得力もって置かなければならないわけで。特に三段目の山口の、ほめ言葉への反応が(読者から向かって)右向き、宇部への反応が(読者から向かって)左向き、という絵面にするための位置取りはよくできてるな、と思う。
/続いて、甲斐と山口の会話の場面。ここでの甲斐は、山口が見出だして導いた人物である。ある種、現状の宇部の相似形。そして山口は、甲斐がかつての自分と似たようなことをしているのを知る。甲斐の話すコマの背景に、前段での宇部の話すコマと同じく黒ベタ&カケアミがかかるが、このコマで描かれる表情は山口のもので、甲斐は作業する手元とその吹き出ししか入ってない。つまり、この闇は山口の内面である。「……」という吹き出し、目元まで入る網トーン。さらに、甲斐は山口よりも“上”の深度でそれをこなせていることがさらっと示される。
/本のノドまたいで左ページにいくと、一コマ目は山口のカラッと明るい笑顔。背景トーンはキラモヤ、であるが頭部まわりは白、空白。狭い縦長コマで一瞬顔ふせた山口が、下段に進んでの横長コマにてアップの顔で目をそらしながら告げるこのセリフよ、表情よ、背景の闇とも光ともつかぬトーンよ。俊巡にして自覚にして、自制であり吐露であり。これが福島聡だ。それを受けて甲斐がほがらかに笑ってみせる、ということは、山口は前々回で見出だした自分の役割、背中を押す役目をちゃんと果たせているわけである。そうありつつ、あろうとしつつのぞくもの、というのが今回の内容。その後のすったもんだの実技&協力をこなして、最後に折り合いという形で出てくる感傷も、また。
/それにしてもまあ、やっぱり絵的な遊びに満ちているのが楽しいんだよな。山口にとっては背景トーンとして浮かぶ光が、千葉監督からはハゲ頭という内面(?)から発されてるあたりも明らかにギャグ入ってるし。あと、今回だと背景トーンの拡大。

→マンガで服の模様にトーンが使われてるけど、描写の大小とわず模様のサイズが同じだから一貫して見るとなんか変、みたいなことあるじゃないですか。本作はそれを逆手にとって、人物が拡大されれば背景のトーンもでかくなる!という遊び心。好き。

●浜田咲良『画家とモデルと魚たち』/読み切り2話目。餌付けから始まる恋もある…恋?プロ意識、あるいは食欲という割り切りからすればブレにあたる感情の部分。オチがちゃんとつく変なラブコメやれていて良いよ。

●松本水星『燕のはさみ』/最終回。


  • 予告マンガ、こんな(誌面単位での)自画自賛見せられても痛々しさの方が勝るんだけどな、正直。