ハルタ 2019-FEBRUARY volume 61

※上であおったわりに、まあ先月号なんですけどね。



丸山薫『図書室のキハラさん』/帯裏連載。湿気とカビのファンタジー化か。本の痛みはねえ。

●富沢未知果『卵色の幸福』/読み切り。学園もので友情、地に足の着いた展開。正直読みにくさもあるが、画面構成により演出を作る意図がしっかり見えるのでよし。面白かった。描き文字のサイズについては編集側から指導してほしい点だが。特にラスト。

九井諒子ダンジョン飯』/続・チェンジリング。扉絵は種族表(?)。

→本編1ページ目、冒頭から構成が上手い。1コマ目、上と右に断ち切りのコマ。現状が描かれているわけだが、左右に壁の見える構図により背景=環境の図示。コマ右側の壁、次に構図奥での人物の動作とオノマトペ「もたもた」が目に入る。左方向に視線は進み、構図手前の人物と「スタスタ」まで見て、移動中であること、各キャラの進行状況が見てとれる。
/そこから次のコマ、下方向に視線をやるわけだが。1コマ目左から右に折り返しつつ下段に向かう視線は、二段目コマの左右を分かつ、左に傾いたタテ枠線に誘導される。「がっ」というオノマトペ、衝撃示す破裂漫符、“足元”の絵が目に入る。コマの大きさ、コマ内の空間は2コマ目で急に狭くなる。また、2コマ目でつまづいている床の鉄枠は、ページ上では、ちょうど1コマ目で描かれたそれの“下”に位置し、より大きく描かれている。
/ここで読者に意識される“アングル”の変化は、1コマ目の構図から、2コマ目は下方向に移動して一部アップ、という形。つまずくという描写・キャラの足元にあわせ、視線移動の方向、コマ(絵の枠)の縮小、部位の拡大もあわせて意識されることで、描写がより効果的に映える。
/2コマ目の描写を受けて、3コマ目は転ぶ絵。「がっ」(つまずき)の結果としての転倒&「ズベ」(“転倒後”のオノマトペ)。ここで面白いのは、2コマ目から3コマ目、右から左への視線移動の中で、右側コマにおける左上カドの鋭角さが、左側コマにくい込んでいる・かぶさっているような感覚を覚えさせる点である。それがコマ間の影響のスムーズさ・連続する瞬間であることを意識させる。どちらのコマもフォント無しで集中線あり、「がっ」「ズベ」という連続オノマトペのテンポ、という点も、読者に瞬間の連続と読ませる上でより効果的である。
/1コマ目から3コマ目という尺で通して見ても、「もた もた」「スタ スタ」というオノマトペからの、あるいは断ち切りコマの広さからの、話運びとしてはテンポアップと映る作用である。1コマ目と2コマ目における鉄枠にふれたが、さらにここで転ぶキャラの1コマ目と3コマ目の位置関係を見ると、二つのコマの鉄枠を経由した曲線上に位置するといえる。2コマ目と3コマ目の間の左に傾いた枠線が、1コマ目から2コマ目へにおいては視線の誘導、2コマ目から3コマ目へにおいては描写の連続性、と異なる効果はたす点も技巧の妙味だ。

→やっぱり九井諒子はすごいなあ、と、冒頭3コマでこんなダラダラ語ったりするから感想書くの大変だったんだよ、思い出したわ。さて。前回のバトルで種族の能力差にふれたが、今回は年齢という生態にも言及。飛行するモンスターの描写において速さを表現するべく、ページや段の切り換えにあわせての“出現”。一方で、左への視線移動の中においては、スクロール・分節としての描写。背の低くなったマルシルのハプニング描写においても、この描法は通用。人の輪は強い(意味が違う)。お楽しみチェンジリングには『鉄鍋のジャン!』の冷凍食品餃子を連想。

福島聡『バララッシュ』/グッズショップにアッコと鶴太郎、という90年原宿の背景。宇部最低だな、な前半の率直な当初の感想はおいて、天才が感情を得るターンに入るのか。凡人の感情は理解できずとも、天才同士においてここで威嚇されていることは通じる、というのは恐怖であろうし、またその狂気とその後の悲哀の描写が上手いんだよ、凡人のそれとの対比あわせて。そこから、しばらく物語中で“通じて”なかった山口の手たたくアクションが、近寄ることで両手で顔はさむという形にここでなるっていう、このカタルシス。すでに心酔する監督も変わった、一歩踏み出してるのよな前回で。だから宇部との別離も必然で、宇部がこういう心境になったらまた出会うのも必然で。見事だよなあ。

●荒木美咲『リトル・ホテリエ』/読み切り。ホテル支配人は小学生!作家名も前作も失念してたが、読んでて芸風思い出す。ドラマとしてのノリのよさに、構図・断ち切りコマの効果的な構成が映える。背の低い中心人物もコマ内でスムーズに読ませてくるあたり、やっぱり上手いんだよな。面白い。

中村哲也『キツネと熊の王冠』/最終回。シリーズ前作もだが、職業ものとしての本分であるディティール描写と、日常設定としてある主人公カップルの描写が、物語として上手くかみ合ってるとは言いにくいのよな。特に終盤では、結果の形としてイベントと成就を両方こなさねば、となると。しかし本作のラスト、カウンターに乗った二杯のビール、その間にヒロインが座ることで身長差も埋まりキスも可能!という状況は、シメの情景としてはうまくいったかな、と。お疲れ様でした。シリーズ続編も準備中とのこと。

樫木祐人ハクメイとミコチ』/親方の家は和風、あと夫人は強い。夏の瓦の熱さは正直ものすごいぞ。

山本ルンルン『サーカスの娘オルガ』/男と女。絵の男もサーカスの男も、どちらも芸術でしかしその追求においては、という対比なのだよな。一人でやって形に残るものと、集団でやる一幕の演舞という差異も物語として利いてくる。作り手といち観客の関係性も通底しつつ。ミロンのしっぽはわざとだよなあ、いい抜け。

●設楽清人『忍ぶな!チヨちゃん』/敵(仕事相手)に対しては素直(冷徹)というね。ワタルのこれはフラグでしょ、しかし。

●浜田咲良『画家とモデルと魚たち』/2号連続読み切り1回目。女体盛り…いやさ、北斎のタコみたいなもんか。サンマはおいしい、生きるに値する価値。このイカれてるんだか熱いんだかっていうノリが面白いんだよね。以前も言ったが、柴田ヨクサル系というか。

●百名哲『止めろ、メロス』/シリーズ読み切り最終回。連載続く内、好みだった当初のフォークロアっぽさからは離れた印象もあったのだが。エンディングをこのような知られざる者のハレという形で決められると、やはり山松ゆうきち的なおはなしの脈絡を感じ取ったのは間違いではなかったかな、と。お疲れ様でした。

近藤聡乃『A子さんの恋人』/事後の日常、のような異国の日。いずれ、“日常に戻る”ことはもうないのだろうな、この物語においては。A君にとっては、選択を延ばすことが決断であったと。