ハルタ 2018-APRIL volume 53

  • 帯裏連載・丸山薫『図書室のキハラさん』は新キャラ登場。がたいのいい文学青年といえば、高校時代の椎名誠、という図が浮かんだり。

大武政夫ヒナまつり』/アニメ脚本チェックしてて、一応設定ぽいことも語っておくか、と後付けで出してきた内容、みたいな。しかしこれだけ続いても技術面ではほぼ上達見られないあたり、野中英次に近いものがある。

九井諒子ダンジョン飯』/扉はリアル調ネコ娘、イヅツミの顔。この絵が作品の基盤にはあるわけだ。
/今回読んでいてやたらコマ数多い気がしたのだが、実際数えてみると25ページで200コマちょい、ページ平均8コマ。加えて、情報量としての絵のディティールと、コマの枠線を傾けることによる緊迫感の演出によって、感じさせる内容の密度はいや増す。新キャラであるイヅツミの見せ場にするべく、巨大で素早いモンスターに小回りで立ち向かうバトルシーンと、その前後の仲間内でのいがみ合いが見どころ。
/本編の展開は、前冒険時の全滅地点でもある、1話冒頭の場所へと到着。つまり登場人物にとっては、ここから先が未知の世界。同時に過去の所持品の再入手が果たされ、その結果バトルにおいてはチルチャックの武器という形で“レベルアップ”的な要素がもたらされる。アイテム入手や知識習得はあっても修行展開は描きにくい本作において、キャラの能力の真価が発揮される、という成長展開が今後現れてくるかも。
/モンスターの発見までとその由来については、上階で登場していたガジェットが伏線となる(おいセンシ)。つまり今回のストーリー構造は、作中(1話からこれまで)に登場した=作中人物も読者も見てきた伏線を元に・作中人物も未見らしい新たなガジェットが登場し・それに新要素(作中人物には旧知、読者には未見のアイテム&新キャラ)で立ち向かう、というものになる。もとより本作にはゲーム的要素が物語設定に昇華して取り入れられているが、この現状は“リプレイ”の物語化としておもしろい。不思議のダンジョンシリーズの救援システムなども体感としては近いものあるのかな、と。
/今回のモンスター・アイスゴーレムは大型ながら、話の尺もあってか、ドラゴンやキメラ描いた時ほど大ゴマを用いる描写はされない。ドラゴンやキメラは四足歩行だったが今回は二足歩行なので、実際占める空間が狭いということもあるかもしれない。ではどのような戦闘描写がなされるかというと、体の一部のみコマに入る、あるいはコマに納めるべくロングショット、という表現が多用される。そしてその描写により映える戦闘スタイルとなると、新メンバー・イヅツミの付かず離れず素早く攻撃&回避、が適任なわけである。
/構図により縮尺が可変する、アイスゴーレムの部分を避け部分を狙う。本作のカットバックによる見せ方の巧さは言うまでもないが、今回は幅の限られたコマ内で大型モンスターの動きを効果的に見せるべく、ロングショットでは斜めの動き(振り幅)、部位拡大時は直線の動き(迫力)が、動線と共に描かれる。イヅツミが退く際にバック転しながらページ左方向に移動するのも、それだけでは馬鹿正直な上手と下手の演出なんちゃらな能書きに過ぎんのだが、それを納めるコマの上下の枠線を傾かせる=左にいくほどコマの高さが狭まることで、奥行きのある動きとして表現できるわけだ。オノマトペもいちいち見ごたえあるし、先に述べた密度を感じさせる構成も、技巧あってこそなのである。

/戦闘後。ネコ娘イヅツミは体も毛で覆われていた、つまり服脱いだこの状態はセミヌード?対するライオスのあくまで研究者(?)目線な点が業深い、だめ押しで後にマルシルとセンシ誤認させる人間への興味のなさがひどい。液状のウンディーネを熱してドリンクにしたの思えば、氷は熱して気化させることで役立てるのは道理か。サウナ内で茶碗蒸しってちょっと想像つかんが。ページ左端に位置するコマにて三段階に、わくわく→そわそわ→イライラと変化していくイヅツミはいかにも猫だが、性格にも影響出てる設定なのだろうか。食卓を共にすることで絆を深めるのはやはり王道。

佐野菜見『ミギとダリ』/幼児性の世界ではあるのか。ギャグマンガという意味でも。

森薫乙嫁語り』/この内面描写をするにあたって、因習に流されず恋に生きた≒“目覚めた”女性、というステレオタイプとして読ませることは、注意深く避けている印象。

●荒木美咲『わかばのこと』/読み切り。青年と姪によるホームドラマテイスト。地に足の着いた話運びに読者の視線移動を意識した画面構成と、実直な作りが魅力的。好みである。

●高橋那津子『昴とスーさん』/↑に続けて読まされると、時間分節も構成も粗が目につく。これに限らず、誌面の大方の作品に共通した問題だけどね。子供時代の記憶が一部無い設定らしいが、時間軸のずれとかそういうオチになるんだろうか。

●櫻井良太『帰らぬ人』/読み切り。描きたい絵面がある、というのはまあわかるが。

樫木祐人ハクメイとミコチ』/この図書館シリーズも、世界観の文化レベルつかめないまま続くとつらいものがある。お勧めでは先を越されても今この場を保ってみせた、という点で今回は引き分けかな。シナトはアニメ出なかったよな、残念ながら。

●設楽清人『忍ぶな!チヨちゃん』/ナースコスプレ。確かにくノ一としては仕事に適してるのかもしれんが。

福島聡『バララッシュ』/深夜に友人と待ち合わせて封切りの映画を見に行く、となんだか原風景をくすぐる描写である。そんな経験ないけど。オネアミスの翼のポスターの隣がエル・トポというのも濃さではある。どちらも名前しか知らないけど。
/本作は、いわゆる“オタク”を描いた作品にしては、内語として“そういう内容”が出てこない。そもそも内面のセリフとしての吹き出しが全然出て来ない。登場人物が口にした言葉のみ見せる、という点で、以前も触れたように映像として読ませることを心がけてるようにも思える。
/そこで交わされる言葉と行動の魅力という話。やや自分に酔ったように大仰に、アニメファンらしい振る舞いを自己解説しながら行う山口。対して、雑談の中さらっと将来に向けての行動を口にする宇部、虚を突かれる山口、各々の「夢と現実」。間をおいて山口も、仰々しく夢を、自分達二人共通のものとして宣言。それにあっさり感化される宇部、そんな宇部に自分で驚く山口。夢のやりとり。手を叩く(パンパン)要素は『ローカルワンダーランド』とパラレルながら重なってるのね。
/そして場に介在してくる面々。カロリーメイトの目新しさや女性のファッションの示す80年代後半ぶり。宇部の天然な行動に山口が同調することで、他者との距離を自覚したり同類とつるめたり。さりげなくコマの隅でヘッドホン外してるの見せる構図がよい。

入江亜季『北北西に曇と往け』/TVCMが探偵設定メインの代物で、これ見て買った人困惑しないか、と思ってたが、本編も「久しぶりのまともな仕事だ」。これも絵押しの作風ながら、対面シーンとアクションでの構成の切り替え等、その使い方において巧いからな。
 

●嵐田佐和子『青武高校あおぞら弓道部』/変装学生生活なあ。なんか絵の尺で押しすぎてシリアスかコメディか判然としない感が。

●サワミソノ『丁寧に恋して』/ぶっちゃけ単行本奥付けでこの作品の担当編集が大場氏だと知ってから、クッソどうでもいいエピソード延々続けられるターンにいつか入っちまうのでは、と戦々恐々としてるんだよねこちとら。頼むから“物語”を描かせてくれよ、それが描ける作家を絵柄ばかりが売りの連中と一緒にしないでくれよ、と。背景描写細かいって理由で新井英樹よつばと!路線描かせたりしねえだろ、というね。/そんなわけで、このギャグ調顔も今後使う機会あるのかしらね。

●高江洲弥『ひつじがいっぴき』/水もしたたるいい男ってか。タイトルの由来と思われるガジェットも今回登場したし、夢の中の存在である、という点が話の主題になるのかな。

●山本和音『星明かりグラフィクス』/まあプレゼンテーションなんて心にもないこと言ってなんぼだし(おい)。で、その“虚業”に対する自分探し、みたいな展開になっていくわけですかね。

近藤聡乃『U子さんの恋人』/番外編後編。扉のなまはげ扮装=わらを表現するペンタッチがおもしろい。
/親族8人同席のコマがいちいちよくてなあ。この混み合いぶりと吹き出し数で、しかしそれらを読者に読ませる順序はぶれさせない構成力よ。右上から中央上・中央下を経由して左下、という視線誘導が多いが、特に場面転換前の7ページ目上段、右上→中央上→左上→中央→下という吹き出しのかけ合いから、左下であ然とするゆうこ、というコマはギャグ調ながらつくづく読ませ方が巧くて。で、この和気あいあいからページ下段に目をやると、縦長コマで黒ベタの下にけいこ、左に目をやると手前の表情消えたゆうこの背後で一同変わらずわっはっはっは(オノマトペ)というテンポね。

/話の内容の方は、ゆうこの双子の妹登場から、あらためてゆうこの背景が語られるわけだけども。なんつうかこの、東京の美大行ったけど卒業してもそっち系の就職するでもなく都心に居座り、たまたま地元近くで働く人と結婚することになったので結果帰郷してくる地方出身者の女性、というモデルがリアルな重みでねえ。またそれが田舎にいたお母ちゃんから方言丸出しで語られるわけですよ、自分には最後の結婚ターン以外意味不明だって。ハルタの読者層はこの筆致に耐えられるのか(意味不明)。お父ちゃんが『丁寧に恋して』同様、激しい怒りの表情を浮かべるシンクロニシティ(ただしブラフ)。
/そんなわいわいパートを一旦終えて、右ページ1コマ目右上の「故郷」から入る見開きに、個人的にはしびれた。

どかっと開けた“田舎”たる風景から、それが見える寒い縁側。そしてこまごまとした小物のある台所、卓上に準備された大家族用の御飯とかぶせられたハエ避け。きりたんぽという土着食。リアリティである。生活のある場所、フォークロアの地平である。この作品には東京の実在のお店とかばんばん出てくるわけだけれども、それらも“聖地”主義として、ディティールとしてのみ存在するわけではないのだ。こういう、物語としての田舎の光景も描ける作家性が出してきてこその、東京でありニューヨークなのだ。
/きりたんぽをガスコンロであぶりながらのしんみりした会話、そこでこそのぞけた内面を告げる彼氏、そして双子の妹てのがよい光景ですわ、また。最後は家族一同に祝福されて、そう、これが“ハッピーエンド”なのよな。

●緒方波子『ラブ考』/応援したくなるカップルではある。不憫さからとはいえ。

●百名哲『有明の月』/なんかCLANNADの芳野さんを彷彿とさせないでもない。


  • 巻末コメント、九井諒子のゲームちゃんとやってる感がなんかうれしい。