ハルタ 2017-DECEMBER vol 50(その2)

※文中のページ数は、作品ごとに雑誌ノド中央部にあるノンブル準拠。





●いやー、ギャグ強いな今回。笑った。ゆうことけいこのシリアス面ものぞき、ラストはある意味これまでの物語空間との決別にあたるのだけれども、話の印象でふり返れば酔っぱらい彼女と天然彼氏に支配された場の空気がもう。そこでこそ吐露されるゆうことけいこのキャラクター、ということでもある。

●店内吹き抜けでのゆうことけいこの階差対面、からの導入。とりあえずのっけから、一段目大ゴマにて階下から見上げるけいこ(上からのアングル)、二段目大ゴマにて階上から見下ろすゆうこ(下からのアングル)、三段目の右コマにて階段上がるけいこ(上からのアングル)、左コマにて上階にいる三人(横からのアングル)と、構図と対比で読ませる動作の進行が好きだ、上手くて。

●で、ちょっと回想。(カカオ)(ピスタチオ)と空間に括弧書きで浮かぶ味概念。えいこの「行こう!」のポーズは以前も見た(別キャラだっけ?)けど、大仰さがちょっとおもしろい。バタついた後の居酒屋、座る三人の上に浮かぶ丸みおび白抜きオノマトペ「シーーーン」の存在感。受けてえいこのモノローグ吹き出しに「~~~」と波形長音が漂い、受けてヒロ君周囲に漂うオノマトペ「ボ~~~ッ」、そして再び「シーーーン」。

●そこから、ゆうこがヒロ君に水向けることで会話が発生。右側6ページ目、右端コマの左向きヒロ君の顔を端緒に、コマ内にて右のヒロ君→左のA子→右下のゆうこが発した左下の吹き出し、と質問会話をくり返し。その回想のまま、現在のえいこ・ゆうこ・けいこで場の盛り上がりは継続。ヒロ君のテンションのアレさに河岸を変えること切り出すけいこ、女性陣三様の発声オノマトペの差異(平坦・太い・震え)がベタながら楽しい。

●章題「梯子」、四人で歩く道中での会話。ここから、人物と吹き出しの位置取りがおもしろくなる。前に向かって歩いている動作、と、会話の一部をコマとして切り取った時の主と従、を、右から左に読んでいく読者の視界、でいかに読ませるか。この手の構成が抜群に上手い作品である。

→左9ページ下段。歩きながら話していたら会話に割り込まれてはたと止まる、という流れを、構図の転換でスムーズに読ませる。で、ページをめくると。

→右10ページ。“間”の効果を出した上での、けいこの表情(≒内面)への急な寄り。からの、ロングショットで走り去るけいこ。視線の移動と逆方向への動きで、動線とオノマトペついて、コマの奥へ向かう形に描写される。顔のみのコマからこの動きへの急転、しかも間に破裂型吹き出しを挟んで読ませる。そこから、けいこを見つめる連れの思考を時間差もって読ませる吹き出しの位置取り。物語を構成する構図だ。この下の段の1コマ目は話しかけてくるけいこで、また(追いつくまでの)時間経過を読ませるわけだが。

●で。前回はゆうこの後頭部(を見せる構図のコマ)続いた後に、ページめくったら彼女らしからぬシリアスな表情、という構成が印象的で、感想でも触れましたが。今回も先の2枚目の画像、右10ページ冒頭からゆうこの後頭部が続くこととなる。二段目3コマ目から、背後からの構図で、話しながら歩いているえいことけいこの間に近づいていき、右ページ最後のコマで割って入り言葉を発するゆうこ。そこから左11ページに移ると、ゆうこがそのまま先頭を歩きながら(後頭部より)セリフを発し、最後のコマで前回と同様、真剣な表情の右向き横顔アップ。見開き最後のコマでようやくその顔を見せる溜め効果。

●めくって右12ページ、一段目一コマ目。上部にゆうこの冷徹な指摘の吹き出し、やや引いた絵で(画風の省略もあって)一列に並んだ状態の四人。ゆうこ以外の三人がコマ右側に、けいこを先頭にする形で左向きで並び、ゆうこはコマ左端に右向きで立つ。前ページからの流れで、ふり向いたゆうことけいこが向かい合った形。ここでゆうこの背景に店入り口の階段。続く一段目2コマ目は、たじろぐけいこの左向き横顔のアップと「……」。これがページ左端。

●下段、右端のコマは、二段ぶち抜きの縦長コマで階段を上がるゆうこの後ろ姿。一段目一コマ目で、左方向にある目的地にたどり着き、ふり向いて話し、そのまま背景にある階段を上がる、という流れでのこのコマ。左に視線移すと、前ページラストと同じく、真剣に言葉発するゆうこの右向き横顔がさらに大きいコマで。位置的に、一段目左コマの、たじろぐけいこの左向き横顔の真下となり、対比である。そこから下に視線移すと、うつむき気味けいこと両脇にえいこ・ヒロ君。ここでの視線の下への移動は、階段上がってる人物から階下の人物へ、という位置関係ともリンクした構成。また、前ページとこのページにおいて、これまでも言及してきた、人物の心象としての白と黒の対比が、ゆうことけいこの描写にも入っている。

●しかし、雑誌のノドまたいで、右ページ最後のコマ構成で下方向に振り切られた視線誘導を一旦元に戻しての、左13ページ。ゆうこの造形はデフォルメされ、セリフは支離滅裂になっての酔っぱらいキャラ化。階段上り終え踊り場でふり向き正面からの全身像である。背中・横顔で語る時はシリアスで、正面顔で語る時はコメディという構造、キャラクター性なのである。また、このページでは全体的にゆうこの騒いでいる姿が描かれているのだが、ページ中央にあたる二段目2コマ目には、正面顔で反論をするけいこが描かれる。ゆうこがページまたぐ長い尺で発したシリアスに対し、彼女がコメディモードになった所での反撃。ただし、このけいこの顔も、前ページでゆうこの指摘にたじろいだ横顔と比べると、サイズも小さいし明らかにコメディ寄り(ピュア?)になっている。それでも必死に言葉を発するという生真面目さが、またけいこのキャラクター性なのである。

●さて、えいこはこの左13ページにおいて、段上のゆうこと階下のけいこの間に割って入るべく階段を少しあがる。めくって右14ページ、一段目の三つのコマは、階段上部から見下ろす構図。1コマ目、コマの右上と左下に「……まあ」「まあ!」と吹き出しを浮かべ、上下に作り笑いで顔を振るえいこ。視線移して2コマ目を見ると、コマ中部に階段途中のえいこ、コマ上部に階段下のけいこ、コマ左下にて再びゆうこの後頭部という図。

→2コマ目に右側から入ってきた読者の視界には、コマ右端から下中央にかけてのえいこの吹き出し→コマ中部えいこ→コマ上部けいこ→コマ左端けいこの吹き出し、が順に入ってくる。ここでのゆうこの後頭部にはけいこの吹き出しがかかっており、読者の視線はけいこの吹き出しからスムーズに3コマ目へ移るため、さほどゆうこについては意識されない。しかし左端の3コマ目では同じ位置関係のまま、ゆうこの後頭部が現れ、左下隅にゆうこの発した「じゃあ」という小さい吹き出しも重ねられ、視線折り返しにあたるコマでの滞留もあり、ゆうこの存在を“後頭部である”ことと共に意識させられる。

→そこから、一段目最後のコマ左下の吹き出しに続く形での、二段目最初のコマ右上の吹き出し。さらに、そのセリフを受けるえいこの図は、前のコマと同じポーズからの拡大にあたる。セリフにあわせて対象の人物に寄った、ここで河岸が変わった構成である。(次の店ついたし。)続く2コマ目でゆうこの後ろ姿が店内へと移動し、位置関係も3コマ目では高低差から横並びに変わる。また、ゆうこのセリフを読んでいく際には、それに対するえいこの反応も目に入るよう構成されている。1コマ目右上から2コマ目右上の吹き出しを見る時は、1コマ目のオノマトペ「ギク」を同時発生的に、2コマ目左下から3コマ目右上の吹き出しを見る時は、3コマ目の吹き出し「……」を間をおいて、読者は読むこととなる。えいこの表情のみならず、テキストの位置取りまでが考えられた構成である。

●三段目に入ると、問いかけながら着席するゆうこを横のアングルから。ここでのゆうこは、左向きでコマの右側に位置する。続けて、向かって立つえいこ、見守るけいこが、その受け手として視界に入る。そして、よーく見るとコマ左端、右ページ最後のコマの左端にヒロ君がちょっとだけ見切れている。左15ページに視界移すと1コマ目、ヒロ君のあっけらかんとした右向き横顔アップで、右上(コマ枠はみ出し)と左下吹き出しで「あ!」「そうそう!」。これ一発でコメディノリに転調していくのだから、ヒロ君貴重なキャラである。ちょっと山田にも通ずるけど。

●で。四人で着座してヒロ君は空気読まずゆうこはいたたまれずに席離れ(顔にタテ線&脂汗&手ふるわせてコマ外に「ピュ~~~」てのが完全にシリアス離脱って感じ)、えいことけいこにゆうこの友人思いエピソードを聞かせるヒロ君。ちょっと感銘受けるえいことけいこの正面顔、の間に背景として無表情なけいこの横顔のぞくのがおもしろい。こういう時は背景パースきっちり描き、その上でキャラ造形はデフォルメという。出てくる作家名がさくらももこ岡田あーみんなのは、前作で出たのがガロという点ふまえて理解するべきでしょう。店員はやはりゆうこがトイレから戻るタイミングで酒出したのか。左17ページ最終コマ「かんぱ~い!」の、2対2で向き合って座る人物・吹き出し・オノマトペ・セリフへの反応・地の文を、1コマにおさめてスムーズに読ませる構図と構成力のよさ、ページめくるとまたちょっと場のノリが変わるという展開の意味でも。右18ページでは、ヒロ君お前…というやり取りしつつ、けいこの持ってきた金魚も脇に登場。ここまでが章題「梯子」。

●場を離れ、トイレで鏡をのぞくえいこ。その無表情な鏡像に、例によって斜線、白と黒の間の表現。他方、残りの三人はえいこについて好き勝手語るのだが、これはねえ、わかりやすく解説してくれてしかもエンタメとして読ませてくれることに感謝すべきですよ、我々読者は。前連載とこの作品の間に載った、あの難解な読み切りを何人の読者が覚えているかわからんけれども。どうなりたいか、デビュー作のストーリー、思い違い、許し、とキーワードまくヒロ君の善性が光りつつ、酔っぱらいの放談という部分もぶれさせず。その言葉を受けてうつむき気味横顔えいこの、顔の上半分がコマの外で見えず、結んだ口元と「……」の吹き出し、という絵面がまた上手い。

●そこからノドまたいで、左23ページは完全にヒロ君主導ギャグパート。1コマ目から背景にSDゆうこ達が踊り、ゴシック体フォントからの最下段大ゴマ、渾身のDon’t think Feel.ネタに噴き出してしまった。これ、世代的にはクロマティ高校の装丁で知った読者もいるんだろうか。
魁!!クロマティ高校(6) (週刊少年マガジンコミックス) f:id:genbara-k:20180117191357j:plain

●そんなわけでほのぼのムードから、婚約&復縁と引っ越しの報告もスムーズにこなしてのお別れ。左25ページ、それぞれ満足げなけいこ、ゆうこ、ヒロ君。一方、最後のコマで一人、後ろ姿に斜線、背景は斜線で接続された白と黒、浮かべる吹き出しは「……」のえいこ。めくって右ページ、今回のラストまでその描法は続く。環境の変化、“お別れ”の時と孤独を噛みしめるえいこだが、最後のシメにまたDon’t think Feel.とは予想外。

●というわけで、コメディの体裁でシリアスも技巧もやるというのはこういうことですよと。いやー、おもしろい。