脚本家ファン目線からの「映画 かみさまみならい ヒミツのここたま」感想(その1・ネタバレなし)

見ましたよ、「映画 かみさまみならい ヒミツのここたま 奇跡を起こせ♪テップルとドキドキここたま界」。いい作品でした!
TV放送では、いかにもキッズアニメ然としたほのぼの日常トラブルコメディである「ヒミツのここたま」。映画CMも“ゆめのくにでだいぼうけん!”的なノリだったし、ちょっぴりドラマチックくらいかな、と思って見に行ったらアナタ、どシリアスですよ。プリキュア映画フォーマットでしたよ。
そもそも私が「ヒミツのここたま」見始めた理由は、シリーズ構成担当が好きな脚本家・土屋理敬だったからです。映画も脚本が土屋氏だから見に行ったようなものですが、いやあ、期待にしっかり応えてくれました。TV版との落差を別作品の土屋脚本回で例えるならば、「ます」を見に行ったら「愛しのジョリー」だった(クラシカロイド)、とか、やよい・亜美真美回を見に行ったら律子回なキャラで「約束」「夢」をやられた(アイドルマスター)、みたいな感じですよ。
映画脚本を担当するのは、劇場版MAJOR以来約8年ぶりになる土屋氏。今回の映画ここたまも、笑いあり涙あり、長編キッズアニメの王道、と評してよいでしょう。





TV放送のここたまでは、すでに10ヶ月間脚本を担当していない土屋氏なのだが(同時期、他にもシリーズ構成を四作品兼任してたわけだけども)、その分の筆力はこの映画に注ぎ込んだ、と目していいだろう。それ程に、映画ここたま(として)の脚本は冴えていた、と思える。
登場人物それぞれに、ほとんどはTV版から継続する形での、ゲストキャラは非日常としての、物語における役目がしっかり与えられ、それをちゃんと果たす様を観客に見せてくれる、まずそこだ。ドラマを語るにせよ、子供達を笑わせるにせよ、地に足の着いた内面をのぞかせ描写する。大勢がわちゃわちゃ大騒ぎしつつも、前向きに頑張る群像劇へと仕上がっている。
またそれをこなす為に、あるいはエンターテイナー精神として、脚本上に展開・山場がみっちり詰まっている。これはベーシックな展開をこなす一話完結アニメにおいても重要な手腕で、一場面にネタを盛ることはできても、物語展開とその速度を作ることができない脚本家というのはいるんだな。
その点では土屋脚本は巧み、というか他作品においても“なぜそこまでキャラクターをたくさん動かしたがるのか(らしさのパート担当もこなしつつ)”と思わせられること、しばしばである。しかしその事が、まごうかたなき“大勢”の息づく世界であることが、物語の内圧を生む、その地平だからこその寓話性を果たすと、私には思える。「おはなし」を語る作家性を見ることができるのだ。





本作品を見た後で、同じく土屋脚本のTV放送第1話、主人公・こころとラキたまの出会いを見返してみると、始まりからしてその関係が“いびつ”だったことが再認識できる。
ラキたまが浮かれ騒いでいて姿を見られたのが失敗、こころを助けようとして迷惑しかかけられないのが失敗、すがったこころに瀬戸際でいらぬ悲しみ与えてしまったのが失敗、もう困ったもんである。人助けが本分の神様見習いなのに!設定が!
だが、主人公・こころはそんな迷惑坊主に「ずっと大切にしてきた色鉛筆から生まれてくれたんだもの。私、ラキたまちゃんと友達になりたい!」と、救いの手を差しのべるわけである。この寓話力。設定などいらぬ、情で動く主人公である。
さらに、やはり土屋脚本の17話になると、迷惑妖精はすでに9匹。学校で大騒ぎするここたま達の秘匿にこころの不審行動はさらに増し、友人から心配されてしまう。
友達のことで悩んでて、とダブルミーニングなセリフでおばあちゃんに相談するこころ。「こころの気持ちのまま正直にすればいいの。そしたらきっと友達もわかってくれるはずよ。」というおばあちゃんの答えに、土屋脚本ファンたる私はアニマス24話でプロデューサーが千早に語った“家族”を重ねるわけだが、それはさておき。
「本当のことを言って!」「お願い、こころ!」と頼む友人に、こころはごまかす為の嘘をつき、続けて「私のこと、信じてほしいんだ!」と懸命に、“正直に”告げる。結果、こころの友人は嘘“も”言っているとわかりつつ、「信じるよ」と笑顔で応えてくれる。うわべではなく、生身を信じられる。“本当”は、こころ自身に見出だしてもらえたわけだ。
そんな主人公だからこそ果たせる役目がある、という物語が、映画ヒミツのここたまなのである。友達を守りたいという気持ちで動き、それが物を大切にしたいという気持ちと通低している。その真を、寓話性を、優しさを負えるキャラクターが、新たな友達とここたまを、そしてこれまですごしてきた世界を守る話なのだ。傷と闇に抗おうと、みんなで頑張るおはなしなのだ。この優しさに、多くの人が触れてほしいと思う。





それにね、やっぱりここたま達の動かし方がかわいいんですよ、行動も練られてて。旧オープニング曲アレンジやミュージカルシーンについても、そのノリや良し。TVシリーズに出たサブキャラ達も、人間・ここたま問わず総出演で見映えあるし楽しいし。予告に出てたように、TV放送では切ない別れを迎えたのぞみ&ビビットものすごい豪腕な理由で帰ってくるし、またそれがいいエンタメぶりだし。
緊張と緩和、もとい楽しさ可愛さ温かさは負けないんだぜ、子供を喜ばせる作品としてあるぜ、という意志もまたはっきりあって、実にいいのです。よければぜひご鑑賞を。





※おまけ
さて、シネコンで見た映画ここたまから“物を大切に”というメッセージを受け取って感慨に浸っていた私。帰るついでに併設されたデパートの食品売り場のぞいたら、こんな物を見つけたのでした。

あっ!映画ここたまの脚本家・土屋理敬がシリーズ構成やってるアニメの商品、かつ映画ここたまのゲストキャラ声優・上田麗奈が演じるキャラがパッケージに描かれた、「プリパラ」の菓子パンが値引きされている!買わなきゃ!

買いました!(おわり)