ハルタ 2017-OCTOBER volume 48

入江亜季『北北西に曇と往け』/もとより筆がつっ走る作家性ではあるのだが、このディテール解説観光描写と悪童の謳歌がフラットにあるのはよく描けるなと。断絶しつつ異郷として一様。少女漫画の伝統文法の一形態ではあるのか。一コマで家畜の柵と提示するあたり上手い。

大武政夫ヒナまつり』/アニメ化発表に合わせての超能力描写かな。

●設楽清人『忍ぶな!チヨちゃん』/恋路を邪魔する妹登場。根はシスコンなのね。

●冨明仁『ストラヴァガンツァ~異彩の姫~外伝』/集中新連載。

●佐藤春美『toコーダレコード』/読み切り。殺し屋と少女の一瞬のふれあいで、しかし日常生活満喫オチなのか。ううむ。

九井諒子ダンジョン飯』/魔法使いでも流派が違う扉絵。小道具の描き分け=多様な設定、世界観の融合がよい。
/敵の喉を裂く、で終わった前回からの続き。今回の一コマ目で、新たに2ヵ所を刺す=2ヵ所目を刺された瞬間の敵の絵&刺した部位に合わせた位置取りの吹き出しと、その中に部位の名称&刺す音「ドッ」×2。続く、横幅の狭い2コマ目で武器をさらに振り上げるカブルー。3コマ目で「ドッ」と、部位名と共にさらに刺し、ここでカブルーと敵の位置関係を描写。2コマ目で振り上げた手がコマの枠線を越え3コマ目にはみ出し、刺した箇所を中心とした集中線と共に、読者の視線誘導を助ける。この一気に緊迫へともっていく構成技術あってこその、前回からのまたぎ方。
/今回序盤は戦闘シーンが続くわけだが、ページ一段目左端のコマから二段目への読者の視線移動、左上から右下方向に読む視界を意識した画面構成が多用されている。というよりこの戦闘場面においては、二段目が横長コマ1つもしくは全体の下部を占める大ゴマという構成のページばかりなので(例外は一段目大ゴマ1つ二段目3コマという構成の1ページのみ)、再読すれば目につく(初読時は技巧として完全に飲まれているので)。構成による演出の例をあげると、前述の緊迫・速度の描写からの転調。一段目最後と二段目に近い構図が並ぶ中、(二段目コマ左側に)瞬間的に“ぬっ”と現れる異物。同構図による上から下へのパン。ロングショットへの切り替え。一段目最後のコマで左方向へ進行するキャラを、二段目では正面からのアングル・右へ傾いた体勢で描くことでの“跳躍”の表現、など。戦闘自体は物別れに終わるが、この作品上、負傷した相手側の“補給”も気になる所。
/戦闘後。修得している術の内容により蘇生の優先順位は変わる、なるほど。解決策=新たな目的をライオスが明言し、仲間&カブルーはハッとする(背景がトーンと黒ベタなのが微妙な心情の差)も、シュローから見ればやっぱり異端で殴り合いに。タイマンはったらダチ!メソッドであるが、展開の描写が上手い。
/まず左ページで、シュローがライオスの手を払いのけ胸をドンと押し、一方的に文句を述べる。めくって右ページは、ライオスの反論台詞。そして最後の前のコマ、やや引いたアングルで二人の表情にまでは寄らない中、シュローの再反論。最後のコマは下方向への断ち切りで、デフォルメ調の怒るシュローの目元、はじける吹き出しの最後はダッシュ線。
/そのまま左ページ1コマ目に目をやると「ぱん…」というオノマトペと共にライオスがシュローの頬をはたき終えた瞬間、という絵。ここでの二人は無表情。殴り返すシュローであるがその表現はまず、同ページ右下、下方向断ち切りコマの中で、右下方向から殴る腕が伸びててライオスの頬に食い込んでいる瞬間、という絵。読者の視線の入射角と逆方向から殴りつけてくる衝撃。ここでライオスは若干ギャグ顔。そこから左のコマに視線をやると、同構図で引いたアングル、数瞬後の二人の全体像。殴られたライオス、殴りつけたシュロー、共に体勢は左方向に傾く。この二コマについてはオノマトペなし。
/めくって右ページ、1、2コマ目は縦に並ぶ。1コマ目、左に吹っ飛び中のライオスの顔が、下方向に読んでの2コマ目、キリッとした正面顔に寄る。ここはカッコいい。さらに左方向に読んでの3コマ目、右方向に「ゴッ」と何本もの動線を背景にライオスがシュローを殴った絵、である。ここも視線の入射角と逆方向への動きの迫力で、しかも殴ったライオスの拳が枠線こえて2コマ目にはみ出している。表情の厳めしさ、友人同士の殴り合いという状況ももちろんながら、構成により増す迫力。
/ふらつき倒れ込むシュロー、大ゴマで作品メソッドをテーマっぽく宣言するライオス。そしてドタバタ喧嘩パートに突入しての、口論かつ背景語り。他メンバーは、傍で蘇生行をサイレントで1ページ。面白いなあ、集団劇。描写は省略されているが、前段のカブルーの蘇生描写、「血が足りぬ」「食材を集めて」というセリフ、血の入った茶碗で、マルシルの術との共通性は見てとれる。「飯を食った」ライオスに負け、再び倒れ込むシュローにすかさず飯を差し出すセンシ、その為の布石かよ2話またぎ。ちょくちょくギャグとしてコマの端に見切れていたガジェットが、ここで話として立つという。
/主人公・物語の主題に負けたシュローは撤退。傍観者カブルーは新たな主人公・物語への視点を読者に提示。その二人が食事については、シュローは達成を見て、カブルーはギャグで落とされる、という構造なわけで。以前登場した移動魔法がキャンバスだったのに対し、こちらは掛け軸。そして、あらたな旅路へ。

樫木祐人ハクメイとミコチ』/ひでえ病院だな、おい。まあ世界観上、病気や死は直視しない方向で正解だろうが。食事シーンの味気なさも今回は仕方あるまい。

近藤聡乃『A子さんの恋人』/過去編、であるが今回は挿話調というか、語り手にあたるキャラが珍しくいない。A太郎を追った話ではあるが、内語の登場はA子が二コマのみ。以前から触れられているA子のデビュー作が登場、もとい掲載。
/まず冒頭の、商店街などに並んでいるような“狭い本屋”の中の絵がすごくいい。このタッチで、構図も180度変えて2パターン見せて。
/大学の食堂で語り合う、ありし日の四人。この絵柄だけども、ちゃんと顔が若い(表情にそこまですれた感がない)。技巧のおもしろさとしては、集団での会話時の複数人の(一派としての)吹き出しの融合と分離、A子・U子・K子の動作と吹き出しを目で追う内に行われる構図変更と着座、アップによりコマの角に“手前”として見切れる人物の部分など。
/場面は変わり外、背景に木々の葉と影。自作の出来に悩むA子と、祝い応援するA太郎。二人は光に照らされていて、(直前の場面も含め)普段黒ベタで表現される髪・頭部の大部分が、ここでは白く描かれている。同時にそれは、私が本作の心象表現としてこだわっている、白と黒・光と影という要素が現れている絵でもある。
/この東京タワーの絵もすごいね、しかし。ここで「高いところから見ると 整理されて」というA子のセリフにあわせ、分かれ道で迷うA子→アングル変更→漫画のコマの枠線上にある点、という戯画化。今回は話全体が過去の描写として丸角コマにおさめられているわけだが、この想像図も同じ形のコマに一様に入っている、という表現はちょっと衝撃である。
/A子と別れ、表情が消えるA太郎。そこからの移動の描写も、正面顔→後ろ姿のロングショット→左ページ1コマ目の右上で目的地の明示&後頭部→横からのアングル、と気持ちいい見映え。A子のデビュー作『部屋の少女』を(あらためて)読み始めるA太郎。過去エピソードである今回がずっと丸角コマで描かれる中、この作中作だけが普通の長方形コマになる(枠線にはトーン貼ってあるが)。
/内容は抽象的ではあるが、ここまでA子とA太郎の関係を見てきた読者にはわかる、少なくともA太郎が何を見て無感情になったのか、については解釈しやすい。今回、「いつも僕の部屋にばっかりいるし」というセリフもわざわざ入るし。(まあ“キャラ”として読んでいる層にも好評な作品であることは知っているが。)通じ合い、共感、情と思いきや、鏡像、幻影。白いタッチの街と降り始める雨の中、A太郎の後ろ姿→めくってのラストページ1コマ目、雨に降られる無表情のA太郎、髪上部と背景は白、コマ上部の角は闇。その下のコマで、夜の雨の中の電灯の下、であることは示されるが。
/ここで中盤の、光の白の中でA太郎がA子にかけた賛辞と応援を見返すと、A太郎にとってそれらは心にもない言葉であったことがわかる。あらためて見ると、このA太郎のエクスクラメーションマーク多用の不自然さなあ。そして。この見開き場面の会話の中で、唯一吹き出しにシッポがついていない、発言者がコマ内におらずその言葉だけが浮かぶコマ。

捨てちゃダメだよ

/A太郎の、この言葉である。A子はこれに従う、というよりも、物語の呪縛として機能し続けているのが、この瞬間なのだ。A子はA太郎から受け取ったこの作品を携えたままアメリカに渡り、A君もそれを読むこととなり、今はそれがA君の手元に存在するのである。この三角関係ビターラブコメに、物語をめぐる物語、という側面が台頭してきたわけよ。すごくないですか、この構成。

森薫乙嫁語り』/スミス編。今さらながら、歩いて行ける異文化行なのだよな。軽作業を見つける&身につけておくのは大事。音符は鼻歌なのね(本作における“歌”は存在自体が独特なので)。

中村哲也『キツネと熊の王冠』/タイトル一新、主人公も交代して新章突入、て予告くらいしといてよ。ケンカっ早いギザギザ歯短髪ヒロインと朴訥メガネ大男の章。前章で生涯をかける仕事であることを示し、これからターム毎に異なる主人公を描くそう、との単行本情報(ネコと鴎の王冠(クローネ) (HARTA COMIX))。前章は家業として醸造営む場であったが、本章はその舞台の開設からと。

●サワミソノ『丁寧に恋して』/遅刻してまで即貯金をおろし、公園の机はでこぼこなので教科書置いてその表紙の上で字を書く、とキャラの性格をディテールで読ませるのがいい。その作風の分、先生の妄想もなんか生々しくなっちゃってるが。地に足着けた展開の中、今回は若人二人の感情が強く出る山場でもあり、瞳の描写でそれが表現される。ある意味アナクロ、だからこそ強い。対して、目がほとんど点状態の先生は、今後も動きそうにないなあ、と。

●高江洲弥『ひつじがいっぴき』/なんというか、本当に小学生の教室の倫理としての「仲良し」負わせるニヒルさがな。背徳の縁歩き続けてるひやひや感が魅力なんだよね、困ったことに。

●緒形波子『ラブ考』/ベタな行動様式の中で、見出したずれに価値を感じる。確かに生身のリアリティではあろうが。

●木村みなみ『河川敷のシャトル』/読み切り。木村みなみはずっと“(口に出しては)伝えない”ことを描き続けており、そのテーマを抱える作家性と構成の丁寧さを私は気に入っている。本作は状況設定としてはベタとも言えるが、読ませたいのは終盤の見開きの背中、そしてそこまでに二度ページ1コマ目に映る背中、という展開である。表情が見えないという絵、を見せたい。それは未知ではあるが、可能性ではないのだ。今ここで主人公にとってそうある、一人だけの心にやどる真。そのことの切なさが、私にとっての木村作品の重みだ。描くことである個人のドラマで、だからこそ持ちうる誰かにとっての普遍性。/次号も読み切り登場とのこと。久々の登場で思わず感想ノってしまったけど、次作のテイスト別物だったらどうしよう。

●中河星良『蝶々星』/読み切り。いろんな要素が入っているが、80年代少女マンガテイストで描かれる男の友情といった印象。いいんじゃないでしょうか。




  • 裏表紙連載、宇島葉『ハルタカルタ』最終回。フルカラーカートゥーンと考えれば、貴重な枠であったな。画力によるパロディが楽しかった。お疲れ様でした。
  • 帯裏連載、丸山薫『図書室のキハラさん』は白衣メガネうわばみさん登場。