九井諒子『ダンジョン飯』1

雑誌掲載時に全話感想書いてるし、せっかくだから単行本発売に乗じて再掲してみようのコーナー〜。

ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス)ダンジョン飯 1巻 (ビームコミックス)
九井 諒子

KADOKAWA/エンターブレイン 2015-01-15
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既刊の短編集3冊で、その奇想と構成と表現の筆力を知らしめた、九井諒子の初長編『ダンジョン飯』である。



Fellows! 2012-JUNE volume 23 (ビームコミックス)
当ブログ感想記事で、私が初めて触れた九井諒子作品は、2012年6月刊「Fellows!」volume 23掲載の読み切り『狼は嘘をつかない』。(のちに短編集『竜のかわいい七つの子』収録。)その際書いた感想は「導入部の世界観説明がこれって、おもしろいわあ。異形でありつつ地に足ついた世界観がすごくいい。センス・オブ・ヒューマンと書いてユーモア、が確実に息づいております。/今後、長編連載予定とのこと。」というものだった。
「導入部の世界観説明」とは、作品冒頭で広報・学習マンガ風の絵柄・構成により“狼男のいる世界”“息子が狼男である暮らし”の解説がされていた点。さらに、作品世界ではその描写がテキストとして流布されている、その著者が主人公の母親である、つまり主人公は狼男、という設定であった。ともすればメタギャグ的な、しかしそれが世界として存在したならば、片隅の日常としてあって然るべきだろうモノ語りヒト語り。「異形でありつつ地に足ついた世界観がすごくいい。」とは、そのディティールと“生活”描写の発想に対しての評であった。「センス・オブ・ヒューマンと書いてユーモア、が確実に息づいております。」とはその見せ方、肉付け、語り口への好感だった。
ハルタ 2013-MAY volume 4 (ビームコミックス)
その後、「Fellows!」の後継誌にあたる「ハルタ」にも九井諒子は登場。2013年5月刊「ハルタ」volume 4では表紙絵と、その絵を題材に表2から続く『カバー・ストーリー』を執筆。同誌で表紙と連載企画『カバー・ストーリー』が同一作家なのはこの号が初めて(のはず)。かしこまった一枚絵から始まったその内容は、ラストでひざカックン。「神事ネタ(ギミックと言うよりはユーモア)と思いきやまさかの地口オチ、楽しい。」と私は書いている。美麗なスタート、からのひねり技、“マンガ”的着地を見せた。
ハルタ 2013-JULY volume 6 (ビームコミックス)
2013年7月刊「ハルタ」Volume 6では、連載作家でもないのに巻末に“予告漫画”を執筆。その内容とは、一人の少女が「ハルタ」を買えず、(ここで見開き2ページ一枚絵)各連載作品の勝手な妄想展開を、拙劣ながらかわいげのある絵で描きつらねる。それを折りたたんで本にする、なんて子供時代を送った彼女は、その後成長し有名編集者として成功者となるも、ふと街を見下ろしながら、あの手描きの“ハルタ”を思い出す夜もある。そんな「おはなし」である。
当時、一読した私はテンション上げまくり、「巻末に「予告漫画」という触れ込みで全然予告になってないショート6ページを九井諒子が描いてるんだが、なんでこんなにおもしろいんだよこの野郎。(ひどい言いぐさ。)夢もパロディも童心も人生すら読ませやがって、コマ運びもすごくうまくって、ちっくしょう、本当うめえよなぁ。くやしい。(なんでよ。)」と書き叫んでおる。おもしろかったんだよなあ、うまかったんだよなあ。

これらの作品の時点で、九井諒子の媒体としてのおはなしとしてのマンガの生かし方を、それを可能にする発想と構成力のすごさを見せつけられたわけです、読者の私は。その作家性を気に入ったし、2012年6月の「今後、長編連載予定」との告知、楽しみにしておりました。



そして2013年12月、「ハルタ」volume 10に『ダンジョン飯』予告マンガ8ページ掲載。「メタファンタジーかしら。」というのが当時の私の印象である。
2014年2月、「ハルタ」volume 11より連載が開始。以下、掲載時の私の感想です。

  • 第1話

新連載。RPG世界観コメディ。ドラクエも設定ツッコミ出したらバカゲーだ、というネタもありますが。お約束を踏襲するにしても外すにしても、ディティールの発想と絵による説得力と楽しさが流石だ。毎号掲載予定。/ゲーム的には風来のシレンのモンスター肉をMOTHER2の調味料アイテムでいただく、みたいな感じか。

  • 第2話

ゲーム的お約束である、ダンジョン内の自然と建物、モンスター分類、死体回収と、絵にされるとシュールですな。他方、材料となる人食い植物の生態、調理方法については解説となるディテール描写、というホラ話。この異相のおもしろさ。スライムゼラチン。

  • 第3話

「食ってる場合じゃないんだよ」、そうね。尾蛇類、ふたつの脳、といちいちごもっともな可笑しさ。他人の命より美味い食事、それが戦士の心意気。(おい)

  • 第4話

魔法使いの体力ステータスが低いのはしかたない。設定ディテール突き詰めると、これだけ妙な物語になるのよな。そもゲームの場合は、システムやビジュアルの穴をその手のおはなしで埋めるのが伝統芸能だったのだけれど。

  • 第5話

トラップが調理器具に!宝箱中の罠の描写がよい。天ぷらか、これは美味そうだ。(はっ)

  • 第6話

この抑制された刺殺シーンの衝撃が構成の巧さ。死亡リセット設定あるけど、というオチ込みで。ここからどう食事ネタに持ち込むんだ?高まる期待!となんだこのおもしろさ。これがメタストーリーギャグか。

  • 第7話

扉絵背景がマップ図なのがよい。正体は殻と軟体生物、と魔術よりは現実的、もといディテール解説が見せ場。未知の食材はいろんな調理法試さないとな。キノコっぽい味ってことは粘菌に近いのかしらん。
ハルタ 2014-AUGUST volume 17 (ビームコミックス)
また、この期間の未収録作品としては「ハルタ」volume 17に掲載された、読者企画「モーゲンハルタ」の短編がある。作家が読者のリクエストに応えた内容を描く、というこのコーナーで、九井諒子は『ダンジョン飯』キャラが現代のデパートで買い物をする4ページ短編を描いてみせた。これもよかった。



あらためて単行本読んだ感想としては、話の進行にあわせた画面構成むちゃくちゃ上手いよな、と。読者の視線の動きと速度をコントロールして、絵と展開をテンポよく見栄えする形で出してくる。連載1話目は、その点本当にすごい。
また続け読みすると、キャラクター描写もいいですねぇ。元々短編集で、作品の内容に合わせて絵柄を変えるという試みを行なってきた作家性です。今回のゲーム的ファンタジー世界でも、コミカルにもシリアスにもききのいい人物&モンスターの造型&描写力を見せてくる。物語としても、ちゃんと共に苦難を乗りこえることで仲良くなっていってたんだな、こいつら。王道RPG展開じゃあないか。(連載ペースで読むと一話完結コメディとしての印象がデカくてね、どうしても。)
そんなわけで『ダンジョン飯』、オススメです。ビームの風呂の次はハルタの飯@エンターブレイン!かもよ。