越智善彦『ドロイどん』96〜100、他

(『ドロイどん』96話より)
冒頭三コマ。「ででん」とたたずむドロイどん。足元、ここでは噴出口ですが、その周囲に煙が漂います。「カシャ」「カシャ」と双方の腕が個別にオノマトペ立てて変形。リアルロボット、じゃないけれど、いつもよりややリアル寄りの描き方です。
で、続く2、3コマ目が、1コマ目の高さからヨコに二分割される。タテに重ねられます。こうすると1コマ目から2コマ目に移動する際、読者の視線は左上に上がることになる。
それに合わせて前のコマからの内容の続き、コマ右側に描かれたドロイどんの、今度は足元の変形。「カシャ‥」と前のコマと同じオノマトペが出る。頭部はコマの枠線より上にはみ出す。読者の視線の高さ(2Dの画面上での位置)と、ドロイどんのフォーカスされる高さ(足元という部位の絵)の変化がリンクする形で読めるわけです。
またこのコマは前のコマからアングル180度回転してるんだけど、その辺は漫画のリテラシーある読者なら読めますよね。ディテールのタッチが一致してる部分で。
このコマではドロイどんがドロイド2体&メガネのあんちゃんと向かい合うわけですが、ドロイドの倍くらい身長あるメガネさんの全身像がコマの中入っちゃってます。コマの左側ではね。
対してコマの右側、1コマ目から続くドロイどんの像については、頭はコマの外だし、幅はこの横長のコマの3分の2をしめている。さらに立っている床が地平線として見切れている。どアップです。だからディテール細かくタッチもリアル風味。対するメガネ達は、ロングショットでデフォルメ。これが横長のコマという“空間”に同居する絵としてあるおもしろさ、ね。スクリーントーンってこんな効果も出せるわけです。
で、そこから下に視線をやると3コマ目。枠なし、俯瞰で、右上から左下に「キュイイイイン」と疾走するドロイどん。この移動方向を絵にする際の位置取りは、真上のコマと同様なわけですね。
上のコマでの、ドロイどん側からメガネ側、手前から奥、右から左。それが下のコマにおいても右から左への移動であり、読者の視線の動きに沿わせた絵としての、俯瞰で見ての右上から左下への直進、という構図なわけです。



(『ドロイどん』97話より)
冒頭3コマ。物陰に隠れながら移動する、お嬢ちゃんとひなたちゃんとお姉ちゃん。
「ぴとっ‥」と壁に身を寄せ、「ふとふとふとふとふと…」と忍び足で歩き、「ひょこ」「ひょこ」「ひょこ」と壁からのぞきます。読者の視線移動がいったん止まり、別の段へと向かう左端のコマで、キャラも立ち止まり次なる光景を見ようとします。



(『ドロイどん』98話より)
「どしー」とジェット噴射で飛空する黒ドロイド集団に、ひも付けて飛んできたおじさん。この杉浦茂画のようなうずまき雲があり、その中には秘密要塞があり、そこにはジェット機もある。
この「どしーーっっ」というオノマトペやうずまき雲のコミカルさと、静物のタッチの落差が私好きでしてね。ここでも手前の物にはスクリーントーンが貼られています。



(『ドロイどん』99話より)
「ぢゃんっ!」(メイン)→「ででんっ」(サブ)→「ポンッ」(オチ)。
背景のだんだん抜けていく感もさることながら、ひらがなのオノマトペの方をキメとして用いるユーモラスさが、この作品全編を通じての価値でもあります。(続く)



(『ドロイどん』100話より)
(承前)そんな世界と日常にあってこその冒険、という「ファンタジー」が、今、あなたの前に一冊の本として現出します。
キャリア20年の作家による週刊1ページ連載セリフなし漫画、という手法をもってして。それを成り立たせる、画力と構成力と密度と愛情により。
以上。





と、いうわけで。

連載開始から2年以上待った『ドロイどん』単行本が。

ようやく形となって、我々のもとへやってくるわけですが。

実際手に取って読んでいただければ。

その中身に、発見や衝撃や感銘を見ていただけると思いますので。

書店に出向いたり。

信販売を使ったりして、購入していただければ。

評判も広まり。

注目され。

刷られ。

出荷され。

陳列され。

購入され。

たくさん売れてくれるのではないかと。

つい、そんな夢想をしてしまうのです。
作者のいちファンである私から見ても、本作品は最高傑作であり、“メジャー”に届く力を十分持ちえた作品である、と。
越智善彦『ドロイどん』、ついに単行本発売です!!