DS『ラストウィンドウ』クリア。おもしろかったです。あとレイチェル。

〜 無愛想で後腐れなさそうで そのくせ、人の痛みを少しは知っていそうな そんなやつのことだ 〜



アドベンチャーゲームの主人公である所の彼は、出会ったばかりの人々からなぜ、話しかけられ、頼られ、胸中をうちあけられるのか。
その理由として冒頭の言葉を渡された男、カイル・ハイドが3年ぶりに帰ってきたよ!(作中では、前作の一年後。)



ラストウィンドウ 真夜中の約束』(任天堂Cing)
タッチペンによる操作で、移動・探索・会話選択をおこない、物語を読み進めていくミステリーADV。
●舞台は1980年、ロサンゼルス。主人公は、元刑事カイル・ハイド。現在はセールスマンだが、社の裏稼業である探し屋の顔も持つ。/というか私としては、職業・探し屋、雇い主の名がエド、て設定で、怪作(!)『花と太陽と雨と』(マーベラスエンターテイメントグラスホッパー・マニファクチュア)がダブる。テイストは真逆ですが。(『花と〜』も、嫌いではないのですが。)
●冒頭のセリフは、前作『ウィッシュルーム 天使の記憶』からの引用。これですよ。この類いのテキストが重力はらみえる、空気とお膳立ての作品だったのです。人情味とダンディズム、オーイエー。気に入った私は今回、続編『ラストウィンドウ』も購入、という次第。
●今作は、舞台が主人公の住むアパート、登場人物も近隣住人、てことでより人情モノ風味強めか。/“ご近所の人”、ならば「悪役」ではない、そのさじ加減が本作の流儀でもあります。
●そもそもこのシリーズ、ミステリの定番ネタたる「殺人」も関わってはくるのですが、それらはすべて“過去の出来事”として置かれているのです。むしろ主題として描かれるのは、そこにまつわる因縁とドラマ。それらもドロドロとした生々しさはなく、登場人物たちの“人生”、という昇華された形として、彼ら・彼女らの語りの中に現れてくるのです。
●ゲームの目的も「犯人探し」や「トリック解明」ではなく、主人公カイル・ハイドが「真相を知る」ことが、それとなります。過去という闇の中にあった物語に、光をあてることがプレイヤーの目的なのです。
●と言い切ってしまうには、その多くは目の前のトラブル解決という形での「謎解き」にも、魅力は十ニ分にありますが。DSやWiiの「機能」をフル活用させるんですよ、Cingは。これはおもしろい。/『アナザーコード』での“スタンプ”とか、あの発想は出ないよ、普通。(詰まってネットで攻略法見て衝撃。私的に『かまいたちの夜』の〇〇〇〇と双璧。)今作は自力で全部解けたけどな!正直それはそれでどこか寂しい、とユーザー(俺)とはなんともわがままな存在です。
●物語自体は、絶賛するまでにはいかないかな、というところですが、ここで確かに一つの作品世界が息づいてる、という部分で十分に酔わせてくれます。出てくるキャラみんなに味がある。また、このゲームの会話シーンでは、DSの両画面にキャラ二人各々の上半身が映り、言葉のやりとりの度にちょっとした仕草・動作をするんですが、これが実によい出来。見てて楽しい。そこいらが相まって、だから思えるんですよ。あー、いい奴らばっかりだなー、って。
●音楽も作品世界を盛り上げる上で、非常によい感じでした。一瞬、馳見″Ace″大地(『神宮寺三郎』シリーズ作曲)かよ、と思った曲もあったりしてね。いいですよ。サントラ出ないかしら。ベタですが「約束(オルゴールVer.)」「黄色い砂漠」が気に入ってます。
(一部ネタバレ→)●また今作ではおまけ的な要素として、プレイを進めるごとに主人公の行動が小説に描かれていく、というシステムがあるのですが、物語のエンディング後、登場人物の後日談が、そこでのみエピローグとして描かれているんですね。三人称で、文字のみで。このやり方、プレイヤーへの読ませ方でありゲームシステムであり、は方法として非常におもしろく感じた。この作品の本編は、カイル・ハイドという男が主人公の、彼が出会う事態と人々の物語なのです。プレイヤーがタッチペン操作を介して、見聞きし体験した物語なのです。それとはまた別の味わいとして、主人公の預り知らない場面とカイルというキャラ自身の後日談とが、クリア後のおまけとして、プレイヤーが読む“だけ”の世界として設けてある。意図された効果かはわかりませんが、このプレイ体験は非常に印象的でした。余韻にたゆたうプレイヤーの心への、エンドマークの植え付け方としては、この上なく効果的な手法ではないでしょうか。/ちなみに俺、クリアしたら「エピローグが追加されました」て画面表示出たんだけど、どこにどんな風に追加されてんのか意味わかんなくて、何
度もタイトル戻ったりオプション開いたり、一度はゲームを始めからプレイしてみたりしたよ!
(一部ネタバレ→)●あと、作中で一ヶ所、プレイヤーが自由に、適当でもこだわってもいいから好きに“入力”してね、という場面があります。俺はこれ、頑張って入力しました。『MOTHER2』のラストバトルみたく、あとでなんか反映されるのかも!という期待もあって。結果、何も起こらなかった。俺は正直、ちょっとガッカリしました。
でも今なら思えるのです。なにかメリットがあるわけでもないのに一所懸命入力する、目の前のキャラへカイル・ハイドとして誠意をみせる、そのプレイスタイルのハードボイルドぽさが、ユーザーのこのゲームへの関わり方として一つの物語としてあるのではないかと。『MOTHER』のフライングマン的な。そのテイストは嫌いじゃない。
●さて、前作『ウィッシュルーム』に続いて今作でも、“大きな敵”となる組織の片鱗がのぞいたわけですけども、これは伏線なんでしょうかね?次回作あたりで、このまかれた種が一気に収束みせたら、読み手としては、すげえ興奮するんでしょうけども。そういうのも期待したい所です。いい作品、シリーズなんですから。



そして、ヒロイン(?)・レイチェル。主人公カイルの同僚、社長秘書で連絡役、情報収集能力に長けた頼れる女、レイチェル。眼鏡にスーツに泣きボクロ、取説のイラストではパツキンて感じだが、ゲーム中のCGでは亜麻色の髪のオフィスレディ、レイチェル。今作の説明書ではなぜか年齢表記消えちゃったけど、前作の説明書から今は28歳だとわかるよ、レイチェル。まあ理想的。(?)
このレイチェルさん、作中では主人公カイルとは電話で話すだけです。常にDSの両画面に分断されて、互いに言葉のみ交わす、そんな関係。しかし!その言葉の端々から、カイルを“憎からず思っている”のが明確に伝わってくるのです。その“憎からず”感が実にいい!その前提となる信頼関係も、二人のやりとりからはきっちり匂ってきます。レイチェルさん、そんな態度見せてたら、カイルみたいな男はもっとダメになっちゃうよ。でも、いい!
しかもカイルとレイチェル、本作においては、前作『ウィッシュルーム』に登場した身寄りのない少女・ミラを、どうも二人で世話しているらしい、という設定が加わったのです。なんだかあの人たち、ミラちゃんのお父さんとお母さんみたいです!(元ネタはTVアニメ版『CLANNAD』。)
で、せっかくだからミラもあわせて三人で会って食事でも、なんて話にもなるんですよ。二人きりで会う、なんてのはあくまでNGなカイルとレイチェル、そこがいい。(ダメなんだけど)。で、また三人で食事なんて話が、作中でそう易々とうまくいくわけなくてね。だがそれがいい、ていうか、その翌日の電話のやりとりがもう!悶えれろ!



…最後の最後で台無しな内容にしてしまった気がしますが、『ラストウィンドウ 真夜中の約束』、よい作品です。この空気と会話、テキストアドベンチャーゲーム好きなら魅了されるんじゃないでしょうか。(前作『ウィッシュルーム 天使の記憶』未プレイでも、基本的には問題なし。)次回作にも期待したい。



※ちなみに余談ですが、私の昨年のベストゲームは、
SIMPLE DSシリーズ Vol.48 THE 裁判員 〜1つの真実、6つの答え〜』(D3パブリッシャーウィッチクラフト)です。
いやもう、感情揺さぶられまくった。

ラストウィンドウ 真夜中の約束

ラストウィンドウ 真夜中の約束