コミックビーム2018年8月号

  • 表紙はデュガロ、裏表紙はペコちゃん。





三宅乱丈イムリ』/嗚呼…これはまさかの展開だ。衝撃であり救いだ。運命の奴隷としてしか生きる道が見えずとも、いつか目覚めることのできる「眠れる奴隷」ではありうる。誰かに希望を伝えうる。と、テーマ的にもジョジョ五部を連想すべきところなんだろうけれども、状況的にまず団地ともおの玉川さん登場回を思い浮かべた俺です。「本当の心」の物語か。

●田辺剛(原作:H.P. ラヴクラフト)『時を超える影』/超文明を持つ怪生物群が、しかし記録という行為においてはインク壺を前にペンを何本も(触)手に取り、筆記にいそしむ光景がユニークだよなあと。新情報を得る封書の(ネームの)文字量と写真の像の存在感もまた。前作『狂気の山脈にて』も、最後のコマが本の絵である点を個人的に気に入っているのだが。/知識、情報、ひいては物語が、ブツと肉体動作に規定されていた時代の存在であることのビジュアル化。それらの背後の“念”をも感じさせつつ、この作品もまた(読者による)“再話”であることの面白み。作画自体はバリバリのデジタル、文字全般は編集者が入れるという体制の作品でなあ。

●小山健『スーパーヒーローになりたくない!』/読み切り前編。想い人か衆生かの選択というネタも王道だが、シリアスとコメディはさんでマンガに昇華させる話法がやはり上手い。絵や構成もテンポよく読ませてくるし、いらすとやも出てくる。(機能美?)アジスアベバって聞くと越智善彦エロマンガ家名義連想するけど。

●原百合子『繭、纏う』/なんと、なんと見事なツンデレ(おい)。吹き出しの透けとしてトーンで表現される髪&制服&自然物等なんとも細かい。見開きを含めた、絵面のメリハリのわかってる感。「繭」は葛藤の表象でもあるわけか。

●伊図透『銃座のウルナ』/称賛に包囲され。故郷を失った死者に対して、故郷の英雄であるからこその地獄という。傍の女性二人も、埋められはしないと知っているのよなあ。

桜玉吉『ボ泣き石』/ほぼ一発ネタながら、元のくだらなさが強くて笑う。

●conix『青高チア部はかわいくない!』/勝てば官軍、もとい勝ち進めば応援も増える、周囲も協力的になる現実を、ストーリー漫画におこすとかくもカタルシスめいた描写に。男の声量のみの圧という、強敵に対する総力戦の趣もあるが、さて。

羽生生純(原案:片桐健滋、梅本竜矢)『ルームロンダリング』/作者の画面構成力の高さについては今さら言うまでもないのだが、近年は作品内容が重いだけによりその増幅に技巧が費やされてたきらいがあってなあ。本作のような、ある種ライトなノリにおいてその能力十全に発揮してくれるのは、食い足りなさも感じつつ、やっぱり読んでて気持ちいいんだわ。

●おくやまゆか『むかしこっぷり』/最終回。こういう形の哀しみ・非情がいや増す筆致の中、最後のページで、そこにいる人だったのか、という話者との情がすとんと落ちてくるという。“話される”ことがまつわる地平にあってのいい漫画、おはなし集でした。お疲れ様でした。

●市川ラク『わたし今、トルコです。』/最終回。ほぼあとがき。意外と楽しいリアル群であったなあ。ビームらしい作家性ものぞいてたし。お疲れ様でした。

中野シズカ『In the Garden』/前後編の後編。彼岸のイメージ。次回最終回。

●オカヤイヅミ『ものするひと』/日常は続く、構図芸はキレキレ。

いましろたかし『新釣れんボーイ』/次回最終回。ぼやく気持ちもわかる、わからずにはいられないが、一発逆転を夢想したら負けなんだよなあ。

●坂口心臓『杉田先輩』/新人デビュー読み切り。ストーリーギャグ。酒よ。

●倖田青空『老後のススメ』/新人デビュー読み切り。老夫婦の日常。朝倉世界一系?それができる日もあれば、できない日もある(家栽の人)。

上野顕太郎『夜は千の眼を持つ』/これぞロボットアニメ。嘘。

森泉岳土『セリー』/最終回。本の中に世界を見た者、読者としてそれを託された身としては、ある種究極の営為であろうか。お疲れ様でした。

三家本礼『アイアン・ゴーストの少女』/最終回。悪には悪を。終盤は大分バタついた印象だったがなんとか。マリアちゃんにも出番が!お疲れ様でした。


  • 市橋俊介の担当が奥村編集総長から交代。
  • 最終回ラッシュは緊張するが、予告によると新連載攻勢あるそうなんで。まだ大丈夫、次号は磯本つよしも載るし!『三代目は梅くくり』オススメ!


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