『保健室の黒便り』2

保健室の黒便り 2 (ビームコミックス)

保健室の黒便り 2 (ビームコミックス)

人助けファンタジー学園マンガ・夏本満『保健室の黒便り』2巻。完結巻である。もっと長くこの世界を見ていたかったなぁ、というのが正直なところ。
当ブログにおける、掲載誌「ハルタ」感想記事中のこの作品への言及を見返すと、私は何度もくり返し「いい」と記している。“よきもの”を見ていたわけである。それは(よし言うぞ)、人の温かさであり、それを希望、救いとする地平である。そういう世界観を私は好いていた。この作者の描ける価値だと感じていた。個人的な印象としては、成田美名子の初期作品にも近い。
ただ、それが長編作品に、ある設定のもと「日常」として続いていく構成となった時に、持ち出されてきたファンタジー要素と齟齬出ちゃったかな、とも正直感じる。短編集『制服なんかぬぎすてて』収録作品群の切り取られた一瞬の方が、物語としての利きはいいのだ。
制服なんかぬぎすてて (ビームコミックス)
だがしかし。やっぱり私は、それを物語の基盤として読ませた試みを否定はできんのよな。あるキャラのある関係、という瞬間ではなく、長い尺の物語の中で世界として描いたことを。だから初連載作として荒さは見えるけれども、やっぱり好きなんですわ。「いい」と思うんですわ。

特に、ヒロインがかわいい!ファンタジー要素がここで映える!

主人公の過去エピソードで登場する白井さんが、もうすごいいい人なんです。前向きで、やさしくて。本作品は人情とそれによる救いが持ち味ですが、その意味でも過去編のみ登場する彼女こそがメインヒロインだと思うんだ、僕ぁ。

その生き方はまぶしくてカッコいいんですわ、やっぱり。
で、そんな彼女と主人公の間にある出来事が、という構成なんですけれども。この点はもはやファンタジーというより寓話的な、ほとんど抽象の領域の話だと思う。でもだからこそ“おはなし”として読める、彼女の善さがそれのみでデンと屹立してみせる、という面もあって。私個人は大いにグッと、キュンときました。この物語世界に対して、そういう読者の身でありえました。
そういうわけで荒削りな面は否めませんけれども。人の温かさ、特に青春という形での寓話として、そのファンタジーにしばし酔うべく時折読み返したい、そんな作品であります。今後も作者応援したいです。白井さんかわいいです。