いわゆる“非実在犯罪”の件

たとえば、テロリストと怪獣が無差別にくり返す殺人、読んでいて痛みを伴う暴力描写を徹底して描き続けたマンガ、『ザ・ワールド・イズ・マイン』という作品がある。
作者・新井英樹のインタビューによれば、この作品が連載中に最も読者から支持されたのは、テロリストとなった青年の両親が社会的・精神的にどんどん追いつめられていき、ついには母親が自殺してしまうまでを描ききったエピソードであった。
また、主として人間の持つ闇の部分が活写され、しばしば残酷な暴力描写も登場する連作短編マンガ、『ハッピーピープル』という作品もある。
作者・釋英勝のあとがきによれば、掲載時に最も反響が大きかったのは、両親を未成年の集団に遊び半分で殺された青年が、未成年ということで何の刑罰も受けることのなかった犯人達に復讐殺人をおこなう、という内容の作品「青いリンゴ」であった。主人公が全員を殺し終える寸前で逮捕されて死刑判決を受け、生き残った少年達は暴力行為をくり返し続ける、という結末に、「納得いかない」「気持ちがわかる」という感想が押し寄せたそうだ。(作者自身もこの内容について、「怒りを込めて描いた」と回想している。)*1



いつでも“本質”を描ける作家はちゃんと描いてきたし、読める読者はきっちり理解してきたのである。
その土壌を否定する、という行為に、損失以外の意味を見出だすことは、私には到底無理な話だ。

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (2)巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (2)巻 (ビームコミックス)

*1:日垣隆『少年リンチ殺人 ムカついたから、やっただけ』少年リンチ殺人―ムカついたから、やっただけ―《増補改訂版》 (新潮文庫)などでも述べられているが、いわゆる「少年による殺人」は集団での暴力行為によるものがほとんどであり、“彼ら”による再犯(恐喝・傷害)も後を断たないのが事実である。