「Angel Beats!」10話の日向に対して、「ジョゼと虎と魚たち」見てから言え、という批判があるそうな

(※以下、映画「ジョゼと虎と魚たち」についてのネタバレあり。)



件のテキストは、障害者に対する求婚としては覚悟が足りない、という批判の意味合いでタイトルのような物言いをされています。
ジョゼと虎と魚たち」とは、“舞台”は被差別部落(明言されてないけど、もちろん件の書き手もそこまで読み取っておられるでしょう)、障害を持つヒロインは“護身”のためのピストルを欲しがり(ないので仕方なく包丁持って外出)、その保護者である祖母は障害者差別をあって然るべきものと認識(お前は壊れもんやで!?分というのがあるやろ!)&福祉なんて詐欺だと忌避、主人公と障害者ヒロインの“恋愛”はまんまエロ、で、そんなもんがうまくいくわきゃねーという傑作映画であります。
あの映画を見たという人が、そのタイトルをこういう文脈で持ち出して、人一人の人生背負うのがどうこう、という次元の話に持っていくというのは、正直いかがなもんでしょうか。車イス押す絵見てパブロフ犬化、とかじゃないんですよね?
浅羽通明の場合は「ジョゼ〜」で描かれる「愛」について、あえて苛烈な書き方で次のように述べています。(反論という文脈で、自らの発言を再確認する箇所からの引用です。)

(※genbara注:浅羽は)「ジョゼと虎と魚たち」に描かれた「愛」が「キュートでピュアな恋愛」ではなくて、差別を越えるがゆえにいやらしさがいや増す、変態的「愛」だとはいっている。「愛」なんて当然あるのを前提としてだ。しかも奇形とヤるごとき変態ならば余計、「性愛」は萌えるといっているのだ。
(幻冬舎刊『天皇反戦・日本』天皇・反戦・日本―浅羽通明同時代論集 治国平天下篇121pより)

作品に対して、読み手としてがっぷり四つに組む、というのはここまでやってこそだと、私は思うのです。こと、「ジョゼ〜」という次元の作品に対するものならば。



でだ。別に私は、「Angel Beats!」という作品に対してハナからそういうものを求めてはいない(件のテキスト書かれた人は異なるんでしょうけど)。そして、そのことには本来、何の問題もないのだ。
私も、障害者プロレス(小人プロレス)や盲目マゾ芸人ショーのルポ、『セックスボランティアセックスボランティアあたりを読んで感動したことはある。障害を持つ少年の母親の「この子が性に興味を持つ歳になることを考えると、憂鬱になる。親としては、ソープに連れていってやりたいとさえ思うが、世間は許してくれないだろう」という言葉を見た時は、泣いた*1
でも、それと「Angel Beats!」10話でウルッと来てるのは、(文字どおり)話が別だ。なんならそれを、「差別」といってもいい。てか(以前「サマーウォーズ」の感想でも書いたが)、この年でフィクション見てる奴が、差別の作法もダブルスタンダードの技術もグレーゾーン背負う覚悟も持ち合わせてなくてどうすんのよ?て話だ。
「AB!」は、ぬるい。間違いなくぬるい。でも、ぬるい作品には、ぬるいが故の魅力と利点がある。同時にぬるさを理由に批判されることも、また当然である。(件のテキストが別に書いている、「AB!」の世界観の欠陥については、私もまったく同感である*2。)でも、「ジョゼと虎と魚たち」なんて爆弾ぶつけるというのは、そもそも批判としてお門違いなんじゃあ…と、私に限らず両作品知ってる人は思うのではないかな、と。
むしろ山松ゆうきち西原理恵子の、一連の被差別叙情モノ(と呼ぶしかねーだろ)にぶつけてみたらどうだろうか。いや、その場合は「どちらも負けてない!」になるのか。
うーん、読者ってばエゴイスト!



というわけで、「ジョゼ〜」なんて火薬庫をあんな脈絡で持ち出されたことにカチンと来て(笑)、一席吹いてみましたが、そもそも件のテキストがタイトルみたいな発言するに至った台詞の解釈(※現実にあった生身の発言じゃないよ?アニメというフィクションの中でのセリフの、しかも一部分を抜き出しての解釈、だよ?)とやらが、同じくそれを実際に見聞きした俺と全然違う方の言ってることだから、正味知ったこっちゃないや。
件のテキスト書いた人は言葉にこだわる身を自認しておられますが、俺も、本棚に『ザ・ワールド・イズ・マインザ・ワールド・イズ・マイン 1 (ヤングサンデーコミックス)と『愛人[AI-REN]』愛人 1 (ジェッツコミックス)と『家裁の人』家栽の人 (1) (ビッグコミックス)を並べておいたり、一昨日の発売日当日に『福本伸行 人生を逆転する名言集 2』福本伸行 人生を逆転する名言集 2を買ったりする程度には、言葉に執着する性分です。
そうそう、『福本〜2』に紹介されてる、「差別されたんだ……」を作品中銀と金―ハイリスク・ハイリターン!! (9) (アクションコミックス・ピザッツ)で読んだ時には泣いたなー。そこまでの話、読み続けてきた身として。

*1:たしか呉智英の著作で読んだはず。「BE・LOVE」掲載『だいすき!!』が今やっている話も、テーマとしてはそこですよね。

*2:でも、他に評価できる点(というか私の好みな部分)が現れたら、とりあえず私はそれを褒める人種なのである。「世界観」という“一要素”を措いてでも。